2018 Fiscal Year Research-status Report
留学生と日本人学生の協働を活かした言語学習活動デザインのための基礎研究
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17K02853
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山田 明子 九州大学, 工学研究院, 助教 (30600613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横森 大輔 九州大学, 言語文化研究院, 准教授 (90723990)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 異文化間コミュニケーション / 日本語教育 / 言語教育 / 相互行為能力 / 会話分析 / 協働学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度においては、収集したデータをもとに、インタラクション構造の分析を行った。本年度の分析から明らかになったことは、主に以下の2つである。 ①各作業場面におけるインタラクション構造の特徴(主に日本語使用場面): 本研究で設計・実践した授業活動には、自分のアイディアを付箋を使用して提示し、全員でグルーピングし、最終的に1つのアイディアを選択するという作業が含まれる。これらの作業場面に着目してインタラクションの構造を分析していった結果、「アイディア提示場面」「グルーピング場面・アイディア選択場面」において、インタラクションの構造に特徴が見られた。「アイディア提示場面」では、アイディアを相手に理解してもらうための相互理解を構築するようなインタラクションが見られた。また、提示されたアイディアの取り扱い方・広げ方は、グループごとに異なっていた。「グルーピング場面」「アイディア選択場面」では、「アイディア提示」で共有された知識をベースに作業が行われるため、1単語の発話によって「理解」や「同意」、「不理解」を示すようなインタラクションが見られた。 ②コミュニケーション上のトラブルが生じた場面の解決における相互行為的工夫: 本研究では、会話分析における「他者開始修復」というコミュニケーション上のトラブルを処理する現象に着目し、言語形式や習得だけではなく、非言語行動や参与者間の関係性までも含めた広い視点から、日本語母語話者と非母語話者のインタラクションを分析した。現段階で、「他者開始修復」が単にトラブルを解決するだけでなく、その連鎖には、修復が効率的に行われるように、音声面から意味内容面まで幅広く理解候補を確認したり、修復が生じやすくなるよう修復者が発話しやすいスペースを会話連鎖の中で創り出す等、参与者間で巧みな相互行為的工夫が行われていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、初年度に収集したデータの精緻化作業および分析を中心に行った。データ収集について、トランスクリプトおよび精緻化作業にかなりの時間がかかったため、今年度は継続したデータ収集は行わず、初年度に収集したデータの分析に集中することにした。ただし、本研究は実験的な環境でインタラクションの特定現象を狙って抽出するものではないため、着目した現象を分析するための十分な事例が集められない可能性があった。そこで、日本語使用場面だけではあるが、研究代表者が担当する日本語の授業の中で追加でデータ収集を行い、現在トランスクリプトの作成を行っている。また、分析作業については、「研究実績」でも記した通り、日本語使用場面・英語使用場面それぞれにおいて、ある程度順調に進んでいる。現段階までに、コミュニケーション上のトラブルを含むインタラクション構造の分析だけでなく、最終的な言語学習活動モデルの提案に向け、設計したタスクの特徴とインタラクション構造の関連づけにも着手している。特に、日本語使用場面に関しては、会話分析研究会での発表・異文化間教育学会での発表、また、査読付き論文への投稿を通し、会話分析の専門家から言語教育・異文化コミュニケーション教育の専門家まで、幅広い専門領域からのフィードバックをもらいながら、分析の信頼性・妥当性を高めることができた。ただし、英語使用場面に関しては、まだコミュニケーション上のトラブルを含むインタラクションの構造の分析に着手したばかりの段階であり、今後は分析作業のスピードを上げていく必要がある。 以上より、当初の計画通りに進んでいない部分もあるが、最終的な言語学習活動モデルの提案に向けたインタラクション構造の分析は着実に進んでいることから、おおむね順調に研究が進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度に当たるため、日本語使用場面および英語使用場面におけるインタラクション構造の分析を進めつつ、その成果を学会発表や論文として公表していくとともに、研究結果を言語学習活動モデルとして現場にも還元できる形にまとめていく。具体的な推進方策は下記の通りである。 ■日本語使用場面に関しては、「修復」という現象に着目し、日本語母語話者と非母語話者が相互理解を構築していくプロセスの分析を進めている。次年度は、「修復」が認知的トラブルを解決するだけでなく、参与者間の関係性とどのように関わっているか、また、タスク達成という場面設定とインタラクション構造がどのように関わっているかについて、研究結果をまとめ、公表していく。 ■英語使用場面に関しては、まだインタラクション構造の分析に着手し始めたところである。本研究の主眼は、あくまで日本語母語話者と非母語話者のインタラクションの解明および言語活動モデルの提案であるが、複言語・複文化主義の下で参与者間のインタラクションをより包括的・全人的に捉える場合、他言語使用場面との比較が必要である。次年度は、日本語使用場面で得られた結果を踏まえながら、英語使用場面のインタラクション構造の分析および日本語使用場面との比較により、分析結果をより包括的にまとめていく。 ■インタラクション構造は、タスク達成という場面自体との関わりがあることが明らかになったが、まだその関連性を研究結果として公表できていない。次年度は、「アイディア提示場面」「グルーピング場面」「アイディア選択場面」という3つの場面とインタラクション構造の特徴を、研究成果としてまとめていく。 ■上記3点の研究成果を、複言語・複文化主義にもとづく言語学習活動設計のためのポイントとしてまとめ直し、具体的な言語学習活動モデルを提案する。そして、現場への還元を目指し、言語教育者向けのワークショップを開催する。
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Causes of Carryover |
本年度は、申請書の計画通りに、トランスクリプト作成のための文字起こし業者への作業外注・業者から受け取ったトランスクリプトの精緻化作業・学会および会話分析研究会発表・専門家を招聘した研究会の開催等に、研究費を使用した。また、物品費として、昨年度未購入であった、データ分析用ソフトウェア(Adobe Creative Cloud)を購入した。 初年度のデータ収集・トランスクリプト作業の遅れから、人件費・謝金及び旅費等が本年度に繰り越されており、また、追加データ収集を1回しか実施しなかったため、平成29年度と30年度分として申請していた研究費をすべて消化できなかった。 本年度は、追加で収集したデータのトランスクリプト作成及び精緻化作業を進めるために人件費・謝金を引き続き使用する。また、分析作業を進めるために、会話分析研究会への参加、専門家を招聘したデータの検討会に、旅費を使用する。そして、研究成果の公表のための、国内外の学会発表・ワークショップ開催に、旅費およびその他の項目で、研究費を使用する。
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