2017 Fiscal Year Research-status Report
ソヴィエト体制を変容させた二つのアルメニア・ナショナリズム
Project/Area Number |
17K03044
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉村 貴之 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (40401434)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ナショナリズム / 共産主義 / 民族離散 / 移住 / 旧ソ連 / 中東 |
Outline of Annual Research Achievements |
科研費の前研究課題『アルメニア「祖国帰還」運動に見る民族アイデンティティの諸相』では、第二次世界大戦後に発生したシリア・レバノン地域からソヴィエト・アルメニアへの移住運動に焦点を当て、その移住の動機や移住後の社会的影響について考察した。 シリア・レバノンからの移住者のほとんどは、第一次世界大戦中にオスマン帝国下で発生した虐殺・追放政策によってアナトリアから難民としてやって来たアルメニア系住民であった。第二次世界大戦末期にソ連邦政府がトルコ政府に外交的圧力をかけ、アナトリア東部の旧アルメニア人居住地域をソ連邦に割譲させようとしたことから、ソヴィエト・アルメニアに移住すると、やがてはソ連邦政府がトルコから父祖の地を割譲させ、そこへ戻れる可能性がわずかばかりあり、それが十分な移住の動機となりえた。 これに対し、同時期に自国政府に虐殺や強制移住を被る経験を持たないイランのアルメニア人がソヴィエトへの移住を決意する背景は、多様である。アナトリアからイランに難民としてやって来たアルメニア系住民も一部に存在し、彼らのソヴィエト・アルメニアへの移住はシリア・レバノンの同胞と共通する動機に基づいていたものの、イランに長年暮らしたアルメニア人の中には、第二次世界大戦中にイランにソ連軍が駐留したのを契機に同地で活動した共産党の宣伝に共鳴した者や、外国軍の軍事介入により混乱に陥った居住国に見切りをつける者も少なからず存在した。ただし、史料的限界があり、まだその全体像を明らかにするには至っていない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は、主に第二次世界大戦後のイランのアルメニア人社会が、ソヴィエト・アルメニアに移住者を送り出す要因と「祖国帰還」運動の展開を定期刊行物を用いて、詳述する予定であったが、史料の保存状態があまり十分でなかったうえに、現地出版の研究書の類も十分ではなく、望むほどの新事実が明らかになったとは言い難いため。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度以降、第二次世界大戦後イランのアルメニア人社会の動向については、エレヴァンのアルメニア国民図書館に送付されたイランの現地アルメニア系コミュニティ紙、さらには国立公文書館に所蔵されている共産党の対外活動に関する文書を活用し、分析する。それと並行して、本研究の重点課題の一つである第二次世界大戦後の「祖国帰還」運動でソヴィエト・アルメニアに移住した在外同胞が、1965年に発生したアルメニア人虐殺50周年追悼集会にどの程度深く関与していたかについて検討する。
|
Causes of Carryover |
剰余経費の大半で、当初、年度内に出版予定だった図書を購入予定であったが、発注ミスで年度内に現物が納入できなくなったため、次年度に改めてその購入費用として充当する。
|
Research Products
(2 results)