2017 Fiscal Year Research-status Report
「治安」の視点から見た近代日本の植民地統治・帝国統治
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17K03089
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
荻野 富士夫 小樽商科大学, その他部局等, 客員研究員 (30152408)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大東亜共栄圏 / 大東亜治安体制 / 治安維持法 / 軍政 / 憲兵 / 「満洲国」 / 南進論 / 八紘一宇 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題で明らかにすることは、十五年戦争以前の植民地統治における各「治安体制」の構築を前史に、「東亜新秩序」から「大東亜新秩序」への膨張のなかで、憲兵・警察・司法を基軸とする「治安体制」の形成・運用過程を追跡することである。「東亜新秩序」から「大東亜新秩序」=「大東亜共栄圏」への創出を下支えし、日本の植民地統治・帝国統治の保守・防護・膨脹を強権的に担ったのが、「東亜治安体制」、そして「大東亜治安体制」であるという仮説の検証を目的とする。その際、国内および植民地の「治安体制」では特高警察・思想検察・思想憲兵などが相互に協調・競合しつつ、最終的に戦争遂行体制の構築に突き進み、それぞれが官僚群としての優秀性を示して全体として「治安体制」をつくりあげた。一方、「大東亜治安体制」の場合、軍を背景とする憲兵が主導権を握ったと考えられる。 この課題遂行にあたり、まず日本国内・植民地および占領地における憲兵の治安機能について検証し、3月刊行の『日本憲兵史』としてまとめた。とりわけ「満洲国」および中国・東南アジアの占領地域における野戦憲兵としての特質に注目したが、台湾・朝鮮における憲兵統治の実態については先行研究に依拠することになったため、今後、本課題に即して検討を加えなければならない。 また、6月刊の『よみがえる戦時体制』(集英社新書)において、戦前治安体制全般の総括をおこなった。一九二〇年代に浮上した総力戦構想が満洲事変を契機に本格的な実行段階に入り、日中全面戦争への突とともに加速し、一九三八年の国家総動員法の成立、四〇年の大政翼賛会の成立、四一年の国民学校令の制定と治安維持法の「改正」などを指標に、対米英戦争を前に「戦時体制」の確立をみたといえる。 これらのほかに、第1年度は軍政関係の基本的な文献史料の収集に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は『日本憲兵史』において、憲兵の特性の一つとして「野戦憲兵」機能を明らかにした。関東憲兵隊が思想憲兵の機能に加えて、野戦憲兵という性格を有していることを明らかにするとともに、日中戦争全面化以降の「支那派遣軍」下の憲兵は、「剿共」・「滅共」を最大の目標に対共諜報網を確立し、治安維持という「保安」機能を全面的に発揮する、より野戦憲兵的性格をもったことを論述した。さらに、1943年の「支那派遣憲兵隊」から「北支那特別警備隊」への改編は、憲兵の偵諜能力に軍事力をプラスするものとして、野戦憲兵への特化と位置づけた。 『よみがえる戦時体制』ではこれまでの「治安体制」研究を集成して、近代日本がどのように「戦争ができる国」として形成され、確立していったのかを明らかにした。十五年戦争の日中全面戦争の段階までを戦時体制国家の構築のための過程を第1章で、アジア太平洋戦争の段階を戦時体制国家の展開とその末の崩壊の過程を第2章で論述した。第3章では、敗戦による戦前治安体制の解体にもかかわらず、わずか一〇年足らずで戦後治安体制が復活していく経緯を追うとともに、「戦前の再来」とならなかった意味を考察した。第4章では、長い「戦後」において十五年戦争の清算がなされないまま、一九八〇年代以降、再び新たな「戦前」への準備がなされはじめた状況を追っている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度前半は2つの著作の執筆に、後半はそれらの校正に時間を割かれることになったが、この到達点を踏まえて、本課題に本格的に取り組むこととする。また、所属大学の定年と重なったために蔵書や史料の整理に時間を割かれたものの、その取捨選択を通じて、本課題に必要な史料群を再確認することができた。 2年度目以降、植民地・占領地における各「治安体制」がどのような意図の下で配置され、どのような治安法制の下で運用され、どのようにそれぞれの統治に向けて機能していったのか、具体的な実証を進めていく。合わせてイギリスを筆頭とする欧米植民地統治・帝国統治の「治安体制」について、先行研究に学びつつ、比較史的考察をおこなっていく。 そのために、シンガポール・マレーシアおよび香港などの文書館の史料調査を実施し、「大東亜治安体制」の理念と実態の把握に努めたい。 合せて植民地・占領地における「治安体制」という実証の追加にとどまらず、近代日本にとって「治安体制」の存在がどのように形成・展開され、歴史の進展にどのような意味をもったのかを、「帝国」研究・「比較帝国史」研究の成果に学ぶことにより、近代日本史・近代アジア史のなかにダイナミックに位置づけたい。
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Causes of Carryover |
当初1年度目に予定していた海外出張による史料調査(シンガポール・マレーシアおよび中国北京・香港など)を、2年度目に延期したため。 2年度目の9月ころに、まずシンガポール・マレーシアの文書館・図書館での史料調査を実施する予定である。その結果を踏まえて、再度の調査および香港の文書館での調査をおこなう。 通訳や現地でのコーディネートについて、同行または現地での依頼を含めて検討中である。
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Research Products
(2 results)
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[Book] 日本憲兵史2018
Author(s)
荻野富士夫
Total Pages
403
Publisher
日本経済評論社
ISBN
978-4-8188-2492-8
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