2017 Fiscal Year Research-status Report
The remembrance of the fallen of the First World War and the local communities in Britain
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17K03177
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
吉田 正広 愛媛大学, 法文学部, 教授 (10284382)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イギリス / 第一次世界大戦 / 戦争記念碑 / ロンドン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ロンドンにおける第一次大戦の戦死者追悼記念碑や式典のあり方を、企業、地域社会、国民国家さらに帝国に至る重層的なアイデンティティ形成の問題として考察する。その際、記念碑の様式や式典のあり方にコミュニティ毎の違いがあることに着目し、地域社会の特質や政治との関連で記念碑や式典を考察する。 ロンドン・シティの狭い区域内に数多くの記念碑が点在する。それは決して偶然ではなく、シティの金融機関に勤める従業員の多くが志願して戦死したことと関係する。初年度は、ロンドン・シティの調査と分析を実施した。 2017年11月12日(日)リメンバランスサンデーの正午ごろに、王立取引所前のロンドン部隊記念碑前で始まった追悼式典を実際に観察し、その様子を動画および画像に収めた。これはコミュニティの追悼のあり方を知る上で重要な機会となった。また、金融機関や教会、鉄道の駅の記念碑など、11月12日の追悼式典後の記念碑の様子、とくに奉納されたポピーの花輪の文面を画像に収め、式典参加者やそのメッセージを資料として入手した。現地調査後半では、かつてのロンドンの波止場地区であるポプラー周辺や、さらにロンドン東部のイーストハム、ウェストハムに残る企業の記念碑を調査した。 研究成果としては、イングランド銀行記念碑の設立に関する一次資料を分析し、職員たちによる記念碑設立活動の詳細を明らかにした。それはイングランド銀行の職員たちの自発的な活動として追悼委員会を通じて行われた。同委員会は、職員の階層や所属する部門の特質を反映した。また、職員総会での委員長ブライアントの演説を分析すると、世界の金融センターとしての自負心やその中枢としての自行への誇りが、強い愛国心を表明させたこと、また、自行の敷地拡大時における教会の解体や物質文明を担うことへの罪意識が、記念碑としての十字架建立の提案に至ったことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年11月10日~20日に金融商業地区としてのロンドン・シティにおける戦死者追悼式典および戦争記念碑の調査を実施した。その具体的な成果は「研究実績の概要」に示したとおりである。 この海外調査を補足ために、国立国会図書館東京本館にて、ロンドン調査前後のThe TimesとThe Guardianの関連記事を調査し、この年のリメンバランスサンデーの注目される記事を集め、今回の体験を新聞記事に基づいて客観化する作業を実施した。その後も国立国会図書館にて、1920年代当時の新聞記事を、The Times Indexに基づいて検索し、基礎資料を収集した。 研究計画にあった新聞記事の復刻版の収集については、The Guardian History of the Warの全9巻を購入し、とくに記念碑や追悼に関する箇所を参照した。そのほか、The Cmbrdge Histry of the First World War などを購入し、最新の研究状況を確認しつつある。 イングランド銀行の職員の戦死者追悼記念碑の設立の経緯については、『多文化社会研究』(愛媛大学法文学部)第5号(2018年3月)に「第一次世界大戦後のイングランド銀行職員の戦死者追悼」を公表し、その一部を公刊した。
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Strategy for Future Research Activity |
【2018年度】ロンドン・シティの金融機関に勤める職員たちが居住したイルフォードやロムフォードなど、ロンドン東部の下層中産階級向け新興住宅地における戦争記念碑および追悼式典の調査・分析を実施する。コミュニティーごとに戦争記念碑の様式、種類にどのような違いがあるのか、またその理由は何かを解明する。ロンドン東部の郊外住宅地における戦死者追悼のあり方をまとめ、地域コミュニティーにおける戦死者のあり方が、どのような形でナショナルなものにつながるかについて考察する。 【2019年度】ポプラー、ハックニーなどイースト・エンドのコミュニティーにおける戦死者追悼の実態を調査する。1980 年代以降の再開発の結果現在は世界各国の金融機関の高層ビルが立ち並ぶドックランド地区を含むポプラーの現状と、当時の様子を表すかつての市庁舎、子どもの死者の記念碑があるポプラー・レクリエーション公園の周辺を調査し、現在のコミュニティーのあり方を観察すると同時に、当時のコミュニティーのあり方を復元する。とくにこの地区が伝統的に労働党が強く、現在でも多様な民族の居住する多文化主義的な地域であることに着目し、戦争記念碑のあり方の特質を探る。 【2020年度】最終年度はセノタフの位置づけの再検討を通じて戦死者追悼とアイデンティティ形成の重層性、「戦死者追悼の政治学」、福祉国家との関連性について方向性を検討する。
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Research Products
(1 results)