2019 Fiscal Year Research-status Report
The remembrance of the fallen of the First World War and the local communities in Britain
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17K03177
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
吉田 正広 愛媛大学, 法文学部, 教授 (10284382)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イギリス / 第一次世界大戦 / 戦争記念碑 / ロンドン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ロンドンにおける第一次世界大戦の戦死者追悼記念碑や式典のあり方を、企業、地域社会、国民国家さらに帝国に至る重層的なアイデンティティ形成の問題として位置づけるとともに、記念碑の様式や式典のあり方にコミュニティ毎の違いがあることに着目し、地域社会の特質や政治との関連で記念碑や式典を考察するものである。 当初の計画では、今年度、ロンドンのシティに隣接したポプラーなどいわゆる「イースト・エンド」について研究を進める予定であった。これらの地域では、第一次世界大戦後に労働党市長が誕生し、ロンドンの港湾機能の衰退など産業構造の変化を経験したため、失業問題や医療、救貧税負担問題が優先課題となり、他の地域とは異なった戦死者追悼の様相を呈していた。ポプラーやイーストハム、ブロムリー・バイ・ロウなど、これらの中核地域の現地調査は2017年度にすでに実施していたので、それらの画像の整理、文献の分析を中心に進めた。 2019年12月末から2020年1月にかけて、ロンドンのギルドホール・ライブラリーで文献調査を実施した。この文書館には古文書や公文書、新聞資料を含めロンドン・シティの歴史を研究するための貴重な資料が揃っている。今回は、The City Pressというシティの地元の新聞を1918~1945までの、主にロンドン・シティの戦争記念碑および毎年の11月11日におけるシティの戦死者追悼記念式典に関する記事を中心に検索し、収集した。その結果、本研究全体にとって重要な新聞資料を収集し、本研究でこれまでの不足していた資料調査を充実させることができた。 研究成果として、『多文化社会研究』第7号に論文「ロンドン部隊記念碑の除幕式とロンドン・シティ」を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで第一次世界大戦の戦死者追悼記念碑を中心にロンドンの現地調査を行ってきたが、今年度は、2019年12月30日~2020年1月10日に、ギルドホール・ライブラリーで資料調査を実施し、ロンドン・シティの地元紙に相当するThe City Pressの戦死者追悼に関連する記事を調査し、関係記事を収集した。これによって、これまでThe Times紙の記事ではカバーできなかった、ロンドン・シティの個別金融機関の戦争記念碑や追悼式典について詳細な情報を入手できた。 2017年11月に実施した現代におけるロンドン・シティの追悼式典の現地調査と比較することで、これまでの研究成果を資料に基づいてその意味づけをすることが可能となった。その一部を、『多文化社会研究』第7号に論文「ロンドン部隊記念碑の除幕式とロンドン・シティ」で明らかにした。 さらに、本年度の研究計画では、ロンドンのシティに隣接したポプラーなどいわゆる「イースト・エンド」について現地調査を進める予定であったが、その一部をすでに本研究の現地調査で実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
【2020年度】 ポプラー、ハックニーなどイースト・エンドのコミュニティーにおける戦死者追悼について引き続き検討する。1980 年代以降これら地域では再開発が進んでいるが、すでに実施した調査によると、依然として移民を中心とする低所得者の住宅が集中する地区のままであり、「子どもの死者の記念碑」があるポプラーでは、第一次世界大戦100周年記念において、ポプラーの市長と近隣の小学生の手で当時の子どもたちの死を追悼する新たな記念植樹がなされるなど、コミュニティーの特質を反映する形で第一次世界大戦の遺産の継承がなされている。この点について、これまでの調査結果に基づいて、詳細に明らかにする。 このことによって、本研究を総括できるのではないかと考えている。当初、最終年度はセノタフの位置づけの再検討を通じて戦死者追悼とアイデンティティ形成の重層性、「戦死者追悼の政治学」、福祉国家との関連性について方向性を検討するとなっていたが、このポプラーの事例を検討することで、「戦死者追悼の政治学」、福祉国家との関連性をより具体的に検討可能となると考えている。
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Causes of Carryover |
第1に、ロンドンでの調査のための旅費について、航空券代が当初の予定よりも安く済んだこと、第2に、ロンドンでの資料収集のための文献複写費を計上していたが、ギルドホール・ライブラリーでは、検索した新聞資料をPDFでそのままUSBメモリに取り込むことが可能であったため、その分の複写費が不要となったことなどで、当初の予定よりも支出額が少なく済んだ。 次年度、この残額と合わせて、ロンドンでの資料調査と現地調査を予定している。
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Research Products
(1 results)