2018 Fiscal Year Research-status Report
Basic Studies on the decorated tumuli in Pasema highland area in Indonesia
Project/Area Number |
17K03233
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
河野 一隆 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 上席研究員 (10416555)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 晴啓 新潟国際情報大学, 経営情報学部, 教授 (40366513)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 考古学 / 装飾古墳 / デジタルアーカイブ / インドネシア先史 / GPS / GIS / 巨石文化 / パセマ高原 |
Outline of Annual Research Achievements |
南スマトラのパセマ高原を中心とする地域は約30基の装飾古墳が分布するインドネシアでも特異な地域である。装飾古墳とは石室の内側に、赤・白・黒などの顔料を使って文様を描いた考古学の遺跡で、とくに鮮明な彩色が遺存するレンバク7号墳や人物文が描かれたレンバク3号墳は重要である。これら装飾古墳は、南スマトラの先史時代を知る上でたいへん貴重である。しかし、装飾古墳と共存する巨石文化については内外の研究者の調査実績があるが、装飾古墳についてはほとんど調査の手が及んでおらず、過酷な自然環境下、遺跡地の十分な保護がはかられておらず、落書きや退色によって貴重な彩色壁画が消滅の危機に瀕しているのが現状である。 この考古資料を記録するための最適な方法は、日本の装飾古墳の調査で行われているデジタルアーカイブ技術である。これに基づけば、どこにどのような文様が描かれているかや、石室や壁画の経年変化も記録することが出来る。そこで私たちは、インドネシア国立考古学研究センター(ARKENAS)の協力のもと、写真測量と光学計測による2つの方法で、それぞれの古墳のデジタルアーカイブを構築する。さらに精度を検証し、考古学的記録やデジタルミュージアムのコンテンツを作成し、デジタルアーカイブの活用方法と可能性について研究を進め、研究基盤としての可能性を追求する。さらにVR・MR化することで、デジタルミュージアムとしての活用方法も開発する。 この目的のため、平成30年度はARKENASを再訪し、昨年度に確定したカウンターパートの研究者と次年度に実施するための方法論や詳細なスケジュールについて意見交換し、課題を共有した。さらに、パセマ高原の先史文化についてのインドネシア語の考古学文献を翻訳し、日本で入手した情報と比較研究を進めると同時に東南アジア先史文化の中での位置付けを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は昨年度に覚書を締結したインドネシア国立考古学研究センター(ARKENAS)と実質的な共同研究を開始した。まず、平成31年度に実施予定のパセマ高原のレンバクに所在する装飾古墳群のデジタルアーカイブを円滑に進めるための予備調査を実施した。その結果、炎天下による直射日光が彩色壁画の記録精度に影響を与えることが判明し、実測の工期や最適な時間帯が判明した。また、簡易で設定した任意座標の精度を検証し、写真測量によって作成するオルソ図面の縮尺を決定することができた。また、これらの予備的な写真測量の成果として、3Dモデルを作成し、さまざまに回転することで装飾古墳の構造を客観的に提示することができた。さらに、この実地調査にあわせて、タラン・パガラグン古墳を訪問し、彩色装飾とは異なる敲打技法による幾何学文様の存在を確認することができた。 また、昨年に入手したまま翻訳が追い付いていなかったインドネシア語考古学文献を、翻訳し、スマトラからパプワに至るインドネシア群島世界の先史文化の諸特徴を比較検討する作業を行った。その結果、先史文化に巨石を用いる風習はインドネシア全域に広がってはいるものの、古墳と石像とが共存しているのはスマトラに限られ、しかも装飾古墳が見られるのは南スマトラ・パセマ高原という時期・地域的にも限定されることが判明した。 このように本年度も、数多くの成果をあげることができた。さらに平成31年度の本格調査の準備も円滑に推進することができ、ARKENASとの連携も順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の推進計画は、第1年次にインドネシア考古学研究機関との連携、基盤地図の作成を行い第2年次の今年度には本格調査の詳細計画の詰めとインドネシア側の調査成果の集約を進めてきた。最終年度である第3年次目は、写真測量と光学計測とを実施し、最終目的である装飾古墳のデジタルアーカイブを構築する。その対象となる遺跡は、南スマトラ州パガララムに所在するレンバク3・7号墳で、実地調査は8月21~23日に行う予定である。その着手前準備として外国人調査許可(RISTEK)申請を行い、調査VISAを取得する。現地へは、空路によって移動時間を短縮し、機器への振動によるリスクを最小限とする。また、着手前には直射日光の遮断装置を調達し現地に構築する。調査は、まず石室床面に簡易座標を設定し、正射投影図の基準線を確定する。その後、デジタルカメラで撮影し、石材の下端など死角が無いように数多くの撮影を実施する。夜間もPCによる画像処理を継続し、明朝に構築された3Dモデルを確認、不充分な部分については追加撮影を実施する。この作業を繰り返して、レンバクの2古墳をデジタルアーカイビングする。調査の最終日には、出来上がった3Dモデルを日本とインドネシア側とで評価し、VRやARコンテンツを簡易的に作成し、デジタルアーカイブをインドネシア考古学にも導入することによって、装飾古墳の価値を再認識させ、遺跡保護にむけてのきっかけを提供する。
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