2017 Fiscal Year Research-status Report
脱植民地化過程の中の遺骨返還と人類学者の公共的役割
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17K03267
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小田 博志 北海道大学, 文学研究科, 教授 (30333579)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脱植民地化 / repatriation(返還・帰還) / 先住民族 / 自然‐文化 / いのちの風景 / 公共人類学 / 研究倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は2つの層をより合わせながら進められる。先住民族の遺骨が収奪され研究対象とされた当時の状況を明らかにする層、およびそのrepatriationと脱植民地化に取り組む現代の層である。以下ではこれらの2つの課題に分けて研究実績を説明する。 (1) 遺骨の収奪と研究の歴史的背景に関して:特に、1879年にあるドイツ人旅行者により札幌から盗み出されたアイヌ遺骨の来歴について調査を実施した。文献調査を通してその遺骨が、かつて「偕楽園試験場」(現在の北海道大学札幌キャンパスから札幌市所管の偕楽園緑地にかけて所在)にあったアイヌ墓地から掘り出されたことを明らかにし、その遺骨の人物と故郷を特定すべく調べを進めた(『北方人文研究』論文参照)。またベルリンで当該遺骨を保管してきた団体BGAEUの関係者に聞き取りを行った。この遺骨“RV33”は昨年北大アイヌ納骨堂に移されたが、故郷の土への帰還は残された公共的課題である。 この調査を通してrepatriationとは単なる骨の返還ではなく、骨が人として帰還できるようにすることだとの理解が深まっていった。かつて生きた人として思い描けるようになること、その故郷の風景をよみがえらせること、そして、その故郷にその人が帰還できるようにすることが大切になる。この理解の深まりに伴って、植民地化される以前の〈いのちの風景〉を回復するという課題が浮上してきた。 (2) 脱植民地化の方向性に関して:Repatriationは脱植民地化というより大きい文脈に位置づけられる。先住民族コミュニティが植民地化され、その遺骨が収奪される以前の風景の回復が重要な課題となる。これに関して、自然/文化を分割せず、自然と人間を切れ目なく捉えることができる理論枠組みの構想を近年の文献、およびヴァンダナ・シヴァが開設した北インドのナヴダーニャ農場における調査を通して発展させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Repatriationというテーマを脱植民地化という課題に結びつけながら研究を進め、それを通して現代の研究者として研究倫理について省察し、公共的な課題に関与できる人類学者のあり方を探っていくことが本研究の目的であるが、「研究課題の実績」で述べたように、その進捗にはこの1年間で確かな広がりと深まりがあった。 また、当該研究課題に関わる「対話の場」を開く実践的な端緒として、日本平和学会2017年度春季研究大会(会場、札幌市・北海道大学)の中で、部会2「アイヌ・ネノ・アン・アイヌ:アイヌ民族の声を聴き、対話の場を開く」の企画および司会を行ったり、その他講演活動をするなど、公共的な取り組みも重ねた。 以上のことから「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのようにrepatriationと脱植民地化に関して、歴史的背景と現代の2つの層を結び合わせながら研究を推進する。今年度は、これまで調べてきたヨーロッパーアフリカ間でのrepatriationおよび日本、インドの事例に加え、南北アメリカにおける取り組みに関しても調査を実施する予定である。
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Research Products
(4 results)