2020 Fiscal Year Research-status Report
脱植民地化過程の中の遺骨返還と人類学者の公共的役割
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17K03267
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小田 博志 北海道大学, 文学研究院, 教授 (30333579)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脱植民地化 / repatriation / 研究倫理 / 協働 / 対話 / つながり / 公共人類学 / 生命論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究実績は次の3点に集約できる:(1) 研究課題に関わる対話の場の実施、(2) 研究成果の学術的な発表、(3) 研究成果の公共的な還元。これらについて以下で説明したい。 (1) 研究課題に関わる対話の場の実施:これは本研究の中でも重要な柱と位置づけているものである。つまり、先住民族当事者の声を聴き、それを踏まえて大学関係者、市民が垣根を越えて対話をし、相互の理解を深め言語化できる場は、多様な当事者間の関係改善のために基本的に重要でありながら、日本では不十分であった。それを補うための試みを勤務校において連続学習会として実施した。そこでアイヌ民族の遺骨問題に直面する当事者および海外の大学で先住民族と大学との協働について経験のある研究者を招いて、講演を聴き、repatriationのあるべき姿、先住民族視点を踏まえた大学のあり方、研究倫理の具体化などに関する話し合いを実現することができた。 (2) 研究成果の学術的な発表:この研究と関わる生命論および脱植民地化についてのこれまでの調査結果を盛り込んだ内容の章を含む教科書(『文化人類学』(第4版)医学書院)が出版された。 (3) 研究成果の公共的な還元:これまでの本研究の成果を含んだ内容の講演(シニア自然大学校等)、授業(北海道大学「文化人類学演習」、「文化人類学特殊講義」、「新渡戸カレッジ・専門職倫理」等)を実施して、研究の公共的な還元を行った。 これらの取り組みを通して、コロナ状況に巻き込まれた制約のある1年であったが、その中で、主要な研究目的であるrepatriationと脱植民地化に関する公共的な対話の場の端緒を開き得たと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
海外および国内での現地調査を行う予定であったが、それが新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより不可能となった。しかしこの状況の中でも可能な研究を「研究実績の概要」で述べた形で前進させることはできたので、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染症収束の見通しが立たない中で、本研究の目的にかなった推進方策を柔軟に考案し、実現していきたい。 その計画の一つが「ポータルサイト」の構築である。本研究(repatriation、先住権、研究倫理、脱植民地化、先住民族トラウマ、大学と先住民族との協働・和解など)と関りのある内外(オーストラリア、カナダ、アメリカ合衆国、ドイツ、ペルー、日本等)のウェブサイトを一覧し、それぞれの概要を日本語と英語でわかりやすく知ることができるウェブサイトを開設する予定である。このサイトの制作の過程で、多様な現場の実践者とつながり、さらにサイトを閲覧する人たちが互いにつながることができる、「つながりの場」となるように工夫をしたい。 先住民族の遺骨問題に関する学習会の運営には引き続き携わる。それに加えて遺骨問題と研究倫理の理解を深めるためのオンライン教材の開発を行う。 また脱植民地化と生命論とを関連づけた論文を執筆し、学術雑誌に投稿する。 さらには可能な範囲で先住民族遺骨の「収蔵」経緯を明らかにする調査をも実施したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症による制限のため計画していた出張ができなくなり、次年度使用額が生じた。 これは次年度分と合わせて、主にポータルサイト開設の費用として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)