2017 Fiscal Year Research-status Report
ホームレス・生活困窮者の居住実態と改善施策に関する法社会学的検討
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17K03321
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
長谷川 貴陽史 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (20374176)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ホームレス / 貧困 / 居住 / 住宅 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①日本のホームレス及び生活困窮者の居住実態を社会調査によって明らかにし、②それに基づいて効果的な居住改善施策を検討することを目的としている。 本年度は、ホームレス及び生活困窮者の居住実態を把握する調査を行った。調査対象地域としては、東京都渋谷区(代々木公園、明治公園周辺)、新宿区(都庁舎周辺)などであった。調査内容としては、ホームレスについては、居住実態(テントや路上の生活実態・居住環境)、日中及び深夜の移動や睡眠の状態、健康状態(通院歴や現在の状態)、戸籍や住民票の有無や位置などを面接調査によって明らかにした。 現時点では、テントや路上の居住環境以上に、無料低額宿泊所等の福祉施設の住環境が劣悪であるという問題点が明らかになっている。市区町村によっては、生活保護の支給を決定しても、アパートではなく、まずはそうした劣悪・不衛生な施設への入居と共同生活とを慫慂する自治体があり、生活保護の運用実態に問題があることが判明しつつある。 他方、近年では、改正住宅セーフティネット法で導入された住宅確保要配慮者賃貸住宅制度のように、空き家を利活用した低所得者向け住宅供給の試みが注目されている。この延長線上には、空き地等の新たな収用事業制度を立法化することが考えられるが、米国のランドバンクの一部では、空き家を規制目的で事実上無補償で収用している事例があり、財産権保障との関係で問題となりうることが明らかになった。この点についての研究成果の一部は、長谷川貴陽史「米国Michigan州Detroit市のLand bankによる不動産取得について―違法な土地収用と規制との間」『現代都市法の課題と展望―原田純孝先生古稀記念論集』日本評論社541-556頁(2018年1月)として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進行していると言える。なぜなら、第1に、ホームレスについて、居住実態(テントや路上の生活実態・居住環境)、日中及び深夜の移動や睡眠の状態、健康状態(通院歴や現在の状態)、戸籍や住民票の有無や位置などに関する面接調査が、絶対数は多くなくとも進行しているためである。この結果、野宿状態の居住環境の劣悪さもさりながら、生活保護を受給した元野宿者を収容する福祉施設自体の居住環境が劣悪であることなどを明らかにできている。 また第2に、居住実態調査と並行して、従来の日本の居住施策についての検討、すなわち、自立支援施設、簡易宿所、無料低額宿泊所、公営住宅などの先行業績の整理が進んでいる。 ただし、課題もないとは言えない。第1に、ホームレスの面接調査について、絶対数がまだ少ない。その主な理由は、被対象者であるホームレスがこうした調査に応じてくれない場合があること、また、コミュニケーションを円滑に行うことが困難なホームレスが少なからずおり、たとえ面接に関する心理的障壁がなくとも、有意なデータを確保することが難しいことにある。これらは予想されたことではあるが、引き続きホームレスの納得を得る努力をするとともに、調査対象区域を拡大すること、ホームレス経験のある生活困窮者からの聞き取りを増やすことで、絶対数を補うべく対応したい。 第2の課題は、ホームレス状態にはない生活困窮者(とりわけ生活保護受給者)について、聞き取りが遅れていることである。生活保護受給者の母集団リスト等は入手できないため、この困難は当初から予想されたことではあったが、ホームレス支援団体の活動に参加している元ホームレスとの接触の機会が少なかったことが一因である。そこで、今後はホームレス支援団体の対象を拡大することにより、生活保護受給者からの聞き取りを増大させることに専心したいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策であるが、前述の「現在までの進捗状況」における記述とも関係するが、第1に、調査対象区域を拡大しつつ、ホームレスの居住実態、日中及び深夜の移動や睡眠の状態、健康状態、戸籍や住民票の有無や位置などについて、面接調査を継続する。とりわけ、被調査対象者本人の意思やプライバシーを尊重することは絶対条件として、対象者の絶対数を確保することに重点を置きたい。 第2に、簡易宿所や無料低額宿泊所等に対する面接調査を実施したい。質問内容は、賃料、生活保護費との関係、居住環境、居住の満足度、就労先との地理的関係などである。また、民間賃貸住宅については、わが国では連帯保証人が確保できないなどの理由から、生活保護受給者による利用はしばしば困難であるが、ホームレス支援団体などの支援により民間賃貸住宅を利用する例もある。その点の実態を支援団体や不動産業者に対する面接調査によって明らかにしたい。 第3に、日本の居住施策を検討する参考として、米国のホームレスに対する居住施策を文献で精査すると同時に、現地を視察し、ホームレス支援団体に面接調査を実施したいと考える。具体的には、私が2010年に面接調査を実施した経験がある、カリフォルニア州バークレー市のホームレス支援団体「Berkeley Food and Housing Project」に協力を仰ぎたいと考えている。同団体は、ホームレス・シェルターのほか、スープ・キッチン、通過住宅などをも運営しており、参考に値する。 なお、調査結果の一部は、国内外の学会やその機関誌(日本法社会学会、Law and Society Associationなど)で公表してゆきたい。既に本年5月にはスペインのオニャーティ国際法社会学研究所で、また同年6月にはカナダで開催されるLaw and Society Associationで報告を行うことが決定している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、「旅費」及び「人件費・謝金」について執行がなかったことが大きな原因である。「旅費」の執行については、①科研費の研究成果を発表するため、海外で開催される国際学会への参加を検討していたところ、それが不可能になったこと、②米国のカリフォルニア州バークレイを中心として、米国のホームレス支援団体や支援の現状を調査しようとしていたが、それがかなわなかったこと、③国内旅費についても、関西などの日雇労働者の集住地域における調査ができなかったこと、などが原因である。他方、「人件費・謝金」については、①ホームレスや生活困窮者、ホームレス支援団体への調査が絶対数として多くなく、謝金が費消できなかったこと、②アルバイト学生を雇用することができず、人件費を費消できなかったこと、などが原因である。 次年度の使用計画についてであるが、「旅費」については、科研費の研究成果を報告するため、海外で開催される国際学会に積極的に参加したいと考える。具体的には、5月にスペインのオニャーティ国際法社会学研究所で開催される研究会、6月にカナダのトロントで開催されるLaw and Society Associationへの出席は既に確定している。他方、「人件費・謝金」については、生活保護受給者である元ホームレスへの面接調査を実施することにより、データを確保するとともに予算を適切に執行したいと考える。
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Research Products
(1 results)