2018 Fiscal Year Research-status Report
ホームレス・生活困窮者の居住実態と改善施策に関する法社会学的検討
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17K03321
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
長谷川 貴陽史 首都大学東京, 法学政治学研究科, 教授 (20374176)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ホームレス / 住所 / 居住 / 社会的排除 / 包摂 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①日本のホームレス及び生活困窮者の居住実態を社会調査によって明らかにし、②それに基づいて効果的な居住改善施策を検討することを目的とし ている。 本年度は、ホームレスに関するこれまでの研究成果を学会報告や論文で公表することに専心した。学会報告としては、まず5月17日にスペインのオニャーティ国際法社会学研究所で開催されたワークショップ「政治を制御する:法と抵抗の政治(Governing the Political: Law and the Politics of Resistance)」において「政治権力に対するホームレスの抵抗:日本と米国における予備的研究(The resistance of the homeless against governmental power: a preliminary study in Japan and the United States)」を報告した。また、5月26日には鹿児島大学で開催された「2018年度 日本法社会学会学術大会」において「ホームレス排除と市民社会」を報告した。さらに、6月8日にはSheraton Centre Toronto Hotelで開催された「法と社会学会2018年次総会(Law and Society Association Annual Meeting 2018)」において「日本における公共空間からのホームレス排除(Exclusion of the Homeless from Public Spaces in Japan)」を報告した。 他方、論文としては、2019年3月、「ホームレス排除の諸形態」を法社会学85号90-106頁に掲載した。なお、未発表であるが、法と社会研究4号(近刊)に論文「身分証明・自己排除・支援―元ホームレスへのインタビューを素材として―」を寄稿し、掲載が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進行していると言える。なぜなら、第1に、ホームレスについて、居住実態、日中及び深夜の移動や睡眠の状態、健康状態、戸籍や住民票の有無や位置などに関する面接調査が、絶対数は多くなくとも進行しているためである。この結果、生活保護を受給した元野宿者を収容する福祉施設自体の居住環境が劣悪であることなどを明らかにできている。第2に、居住実態調査と並行して、従来の日本の居住施策についての検討、すなわち、自立支援施設、簡易宿所、無料低額宿泊所、公営住宅などの先行業績の整理が進んでいる。第3に、上記「研究実績の概要」にも記したように、国内外で3回の学会報告を行うと同時に、論文2本を執筆しているためである。 ただし、課題もないとは言えない。第1に、ホームレスの面接調査について、絶対数がまだ少ない。その主な理由は、前年度でも記したように、被対象者であるホームレスがこうした調査に応じてくれない場合があること、また、コミュニケーションを円滑に行うことが困難なホームレスが少なからずおり、たとえ面接に関する心理的障壁がなくとも、有意なデータを確保することが難しいことにある。これらは予想されたことではあるが、引き続きホームレスの納得を得る努力をするとともに、ホームレス経験のある生活困窮者からの聞き取りを増やすことで、絶対数を補うべく対応したい。第2の課題は、やはり前年度からの課題であるが、ホームレス状態にはない生活困窮者について、聞き取りが遅れていることである。生活保護受給者の母集団リスト等は入手できないため、この困難は当初から予想されたことではあったが、ホームレス支援団体の活動に参加している元ホームレスとの接触の機会が少なかったことが一因である。そこで、ホームレス支援団体の協力を得て、引き続き生活保護受給者からの聞き取りを増大させることに専心したいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策であるが、前述の「現在までの進捗状況」における記述とも関係するが、第1に、調査対象区域を拡大しつつ、ホームレスの居住実態、日中及び深夜の移動や睡眠の状態、健康状態、戸籍や住民票の有無や位置などについて、面接調査を継続する。とりわけ、被調査対象者本人の意思やプライバシーを尊重することは絶対条件として、対象者の絶対数を確保することに重点を置きたい。 第2に、簡易宿所や無料低額宿泊所等に対する面接調査を実施したい。質問内容は、賃料、生活保護費との関係、居住環境、居住の満足度、就労先との地理的関係などである。また、民間賃貸住宅については、わが国では連帯保証人が確保できないなどの理由から、生活保護受給者による利用はしばしば困難であるが、ホームレス支援団体などの支援により民間賃貸住宅を利用する例もある。その点の実態を支援団体や不動産業者に対する面接調査によって明らかにしたい。 第3に、私は本年度は4月下旬から10月下旬まで、オックスフォード大学法社会学研究所(CSLS)で在外研究を行う予定である。そこで、日本と英国とのホームレスの生活実態や支援施策、支援団体の活動内容について、調査・分析を行いたいと考える。 なお、調査結果の一部は、国内外の学会やその機関誌(日本法社会学会、Law and Society Associationなど)で公表してゆきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額69円は、物品費(消耗品=書籍代)の計算間違いにより生じた。 平成31年度は過不足なく費消するように留意したい。
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