2019 Fiscal Year Research-status Report
人口減少社会におけるサービス保障の契約手法-英・コミッショニングの法的研究
Project/Area Number |
17K03407
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
国京 則幸 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (10303520)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コミッショニング / 契約 |
Outline of Annual Research Achievements |
当年度は、コミッショニング=「保障」の法理論の検討を中心に行った。 コミッショニングは、住民に対するサービス提供責任を負う提供責任者(コミッショナー)と実際にサービスを提供する提供者(プロバイダー)との間の「契約」によって、提供するサービスを確定することをいう。しかし契約=コミッショニングではなく、当該契約の前後、すなわち、契約前の、地域ニーズの捕捉やサービス計画の立案とそれに基づく契約内容の決定、さらに契約後の、提供されるサービスの質の監視・評価に至る「一連の過程」としてこれをとらえるところに特徴がある。 このコミッショニングの法的な側面に着目すると、契約(=サービス提供者との間の法的な効果)以外に、契約内容を確定する過程にも法的な統制が及んでいる(=対市民)。コミッショニングを行う提供責任者は、SI 2012/2996に基づく法的な義務を負う(rr.34-36)。具体的には、①あるサービスを確保・購入する具体的な基準や一般的指針を整えておく義務、②特定のサービスを確保・購入しない場合の理由の公表義務、③NICEのガイダンスや①で整えた指針に該当しないような、例外的事案への対応のし方を明確にしておく義務である。例えば①について、設定自体にはなお裁量が伴うものの、ニーズ査定に着手する方法から最終的な契約決定までの全過程を明確化・透明化するという目的による制約があり、またいったん策定した基準や方針には規範性が認められる。 このように、コミッショニングは、契約を中心に、関連する事実行為が付随しているのではなく、この「一連の過程」全体が、判断過程の手続や裁量統制という形で法的な意味を持っており、契約の実質を担保する「パッケージ」となっていることを改めて理解した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の制度や実態との比較検討のため、2019年度まではイギリスの理解に努めてきた。 まず、医療と福祉の提供体制とその実態について、調査を踏まえ、特に、①医療側(NHS)の分権化と地域の機関の重視、②病院運営の基金トラスト化による地域における責任・役割の増大を再確認した。そしてこれらとあわせて、③分権化に伴う法的な手法(=コミッショニング)の拡大と浸透を確認した(2017年)。 NHSで展開されてきた「コミッショニング」は「契約」手法を採るサービス確保の手法であり、現在までに、④サービス提供責任者がそれぞれ独自のコミッショニングを確立してきている(プライマリ・ケア/セカンダリ・ケア/福祉サービスにより当事者関係、内容などに相違がある)。そして、⑤このコミッショニングは、ニーズの捕捉+計画策定+契約内容確定・締結交渉+「契約」+サービスの監視+評価という「一連の過程」としてとらえるべきもので、かつての「行政的管理」手法からの変容として、イギリスでのサービス確保の実質と効率化との両方を実現させる手法として理解すべきものであること、また⑥NHSの「法化」というものの一端を示していることを把握した(2018年)。 そして2019年は、これらの成果の上に、コミッショニングの法的意味の把握に努め、これが「契約」という法律行為とそれに付随する一連の事実行為という全体像ではなく、⑦契約の前段階において裁量統制を行うなどすべての段階で法的な意味合いを持つ一つのパッケージと捉えるべきものであることを把握した。 このように、イギリス独自の医療と福祉の提供体制(構造)と手法の基本を把握し、日本との比較の準備が整ったので、2019年度までの研究計画はおおむね順調に研究が進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
計画の最終年度となる2020年度は、医療と福祉のサービス提供にかかる日本の状況の把握を中心に行い、これまで研究を進めてきたイギリスの状況との比較検討を行う。 まず、年度前半で日本の医療と福祉の提供体制の動向を再確認する。医療については、特に、「地域医療」の展開についてのこの間の動向を整理し、あわせて「かかりつけ医」論議の整理や実態についての把握も行う。他方、「地域包括ケアシステム」について、実態調査や聞き取りなども含めて、政策、法令、実態の把握に努める。そしてこれらを踏まえ、医療と福祉におけるサービス提供の課題と論点を抽出・整理を行う。 他方、これまで把握してきたイギリスの状況との比較検討を行うため、改めてイギリスの理解の振り返り、用語や概念のすり合わせを行う。また、イギリスについては、2019年の政策転換により、新しい「統合ケアシステム」(integrated care system: ICS)の整備が進められている。これは従来の、医療、福祉それぞれのコミッショニングを超えた協同のシステムの構築を行うものと位置づけられており、その動向も注視しながら、関連する法令や資料など情報の収集と把握を行う(場合によっては、渡英し調査を行う)。 このようにして、日本とイギリスにおける医療と福祉のサービス提供にかかる制度および方法の比較法的検討を進めることにしたい。そして、これら研究成果は、所属する研究会等で報告し、論文としてまとめる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、年度末に予定していた研究会の実施ができなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額として繰り越す予算は、英国医療保障もしくは福祉関係文献・資料購入費、または日本の医療もしくは福祉関係文献購入費(いずれも物品費)として利用予定である。
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Research Products
(1 results)