2018 Fiscal Year Research-status Report
「取引の公正」概念の基盤構築:ビッグデータの取扱いをめぐる競争的規制の比較法研究
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17K03414
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
井畑 陽平 長崎大学, 経済学部, 准教授 (80467406)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 競争の制限 / 取引の公正性 / 「取引型の」二面プラットフォーム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、米国法及び日本法における「取引の公正」概念の相対化を図るべく、EU法について、公正性をキータームとして、必要な先例の収集と分析に重点を置いて研究を進めた。具体的には、「取引の公正」概念の外延を検討するための素材として、EU機能条約にかかる先例を収集し、とりわけ、EU機能条約違反とされた先例のうち、消費者利益の保護の兼ね合いでデータの取扱いが問題とされたものを中心に分析した。 本研究が対象とする分野では、法規制、実務、そして研究面において、常に新しい動きがあることを考慮すると、検討の対象としていた制度的枠組みが大きく変容したり、あるいは、より重要な検討対象が生まれたりするという事態も想定され、研究の対象の取捨選択にあたっては、極力、惰性や硬直化を排し、柔軟な対応が必要である。この点に関連して、2018年6月に、長らく待たれていた米国最高裁判決(Ohio et al. v. Amev. co.)が出て、年度後半は同判決の判示事項のうち、特に米国連邦反トラスト法上の「競争の制限」の捉え直し作業も併行して行ったところである。「競争の制限」の捉え方について、従来、価格の動向(端的には、価格の引き上げ)に着目する議論が主流であったため、「産出量の動向」にかかる議論の検討が十分ではなかった。この点で、近時、データを産出量の媒介変数として捉え直す考え方が示唆されていて、その歴史的な淵源について検討する契機となった。 平成30年度を通じて行う研究の成果については、平成30年8月と平成31年1月に、それぞれ研究成果の中間報告し、現在、研究予定最終年度(令和元年度)を見すえた研究目標の再検討を行っている途上である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」に照らして、現在までの進捗状況についておおむね順調に進展していると自己評価した理由は、以下の通りである。 本研究が対象とする分野では、法規制、実務、そして研究面において、常に新しい動きがあることを考慮すると、検討の対象としていた制度的枠組みが大きく変容したり、あるいは、より重要な検討対象が生まれたりするという事態も想定される。このような事態に対しては、当該変容の過程で行われる議論や当該対象に関する外部での議論をも本研究の検討対象に取り込み、その適否を検討した上で独自の分析を進める。さらに、本研究を進めていく過程で、状況の変化によっては、外部の研究者の専門性を活用する等の必要が生じる可能性がある。こういった事態については、随時、必要となる専門性を持つ外部の研究者の協力を仰ぐなど、柔軟に対処する姿勢で臨んでいる。 平成30年度末の時点では、年度途中に研究機関を転出するという特異な事情があったとはいえ、所属する(所属した)研究機関を通じて、判例等の一次資料及び論文・著書等の研究課題に関連する二次資料について、必要なものはおおむね入手できている。また、研究成果の中間報告をするなど、他大学の研究者等との討論を通じて、研究を進めるに当たり取り組むべき課題やその対処方法の適正性についても担保できたと考えている。研究成果の一部については、公表することもできた。 当初の計画以上に進展していると評価しなかった理由としては、年度途中の転出に伴い、(転出前の1ヶ月と転出後の1ヶ月と)計2ヶ月程度、十分な研究活動を遂行できなかった点について、指摘せざるを得ない。この点については、しかし、現在は十分な研究体制を整えられたこともあり、鋭意、研究成果の獲得に向けて、研究活動を遂行する途上にある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の、基本的な研究の推進方策とは、以下の通りである。 本研究課題にかかる研究遂行にあたり、3年間にわたる本来は1つの研究を複数の段階に分け、それによって、単年度ごとに研究成果が出るようにしたことである。すなわち、本研究は、3年間の研究期間を、第一期(平成29年度)、第二期(平成30年度)、そして第三期(令和元年度)に分けて遂行されている。 研究期間の各期を通じて、一定の成果が得られた各段階で調査報告という形で、複数の研究会において報告・発表し、さらにその過程で得られた知見をふまえて論文として公表し、それらに対する意見を積極的に求めるというやり方で進めている。こうすることで、そこまでの研究の客観的な位置づけを得るとともに、独善とならないよう十分に努め、次期の研究の方向性の適切さを担保できると考えている。 令和元年度は、年度を通じて、本研究によって得られた成果をわが国に応用可能な形で具体化させる作業を行う。すなわち、競争法による事業活動への介入を正当化する「取引の公正」概念とは何か、を明らかにする解釈論を展開し、実践的に解決が要請されている個別的課題についての考え方を提示する論文・報告書を執筆・公表する。併行して市民向けの講演の機会を活用し、本研究の成果を、わかりやすく、かつ広く社会に還元する。 令和元年度に限って得られた研究の新たな成果については、おおむね年内(令和元年12月頃まで)に、関西独禁法研究会、九州経済法研究会、さらには国際取引研究会等の機会を用いて報告し、本研究課題については当然として、本研究課題を終えた後の引き続く研究で遂行すべき課題の設定や検討等に活かすものとする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額として、197,847円生じた。これは、平成30年度年度途中の研究機関の転出に伴い、研究活動が十分に行い得なかった期間(転出前の1ヶ月と転出後の1ヶ月の計約2ヶ月)があったためである。研究機関毎に研究費支出の細かなルールが異なり、多少のフリクションもあったことを考慮すると、おおむね、許容される範囲、すなわち研究計画に沿った執行ができていると考えている。 なお、とはいえども残額が生じていることは事実である。この点について、平成30年度の上記2ヶ月間に十分行い得なかった資料収集を、令和元年度前半に補うための支出に充てたいと考えている。また、研究最終年度でもある令和元年度は、積極的な研究成果の公表を行いたいと考えており、所属する研究機関の所在地が長崎であることを考慮すると、本研究課題の開始当初に想定(当初、出発地を名古屋として算定)していたよりは幾分移動する経費等の支出増が見込まれている(出発地が長崎に変更されたため)ことから、そちらに充当することで全体として適正な執行を行いたいと考えている。
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Research Products
(8 results)