2020 Fiscal Year Research-status Report
不安定雇用層に対する社会保障と労働の連続した支援体制に関する日仏比較研究
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17K03415
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
柴田 洋二郎 中京大学, 法学部, 准教授 (90400473)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 所得保障給付の人的適用範囲 / 研修(stage) / 見習い(apprentissage) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「不安定雇用層に対する所得保障を就労による自立につなげる制度の構築」を検討するものである。そのため、フランスで発展した、1.使用者に雇用創出を促す特殊な労働契約である「援助付契約」と、2.就労促進機能を強化した公的扶助である「活動的社会保障給付」を横断的に検討する(1.について、当初検討予定だった「未来雇用」と「世代契約」は、「雇用職能パス」という仕組みに変わった。本研究もこれを対象とする)。これらはいずれも、不安定雇用層に対する社会保障と労働の連続性を重視し、両領域にまたがる形で就労機会の拡大と金銭給付を行うものである。また、これらに加えて、不安定雇用層に対する所得保障・生活保障や雇用創出・促進を行う社会保障法制・労働法制も考察の対象とする。 2020年度は、1.「正規」「雇用」労働者以外に対する社会保障給付、2.フランスにおける不安定雇用層の主体性を雇用能力の向上につなげる制度の2点を検討した。1.については、日仏で共通して、失業時の所得保障給付の人的適用範囲が拡大され、非正規労働者や(不安定「雇用」層ではないが不安定層である)非雇用労働者(の一部)が含まれるようになっていることや、その給付の財源には租税が重要な役割を果たしていることがわかった。ただし、日本における人的適用範囲の拡大は、新型コロナウイルスの感染拡大に緊急に対処するために行われたことから、理論的な検討がなされないまま対策が行われたという問題点(従前の措置との不整合や緊急措置相互の不整合)を指摘した。2.について、フランスでは、生涯を通じた継続的な職業訓練が「すべての者」に保障されており、労働法上「すべての者」に職業訓練に関する複数の権利が認められている。そこで、不安定雇用層の雇用能力の向上に大きく関わる研修(stage)制度や見習い(apprentissage)制度の概要把握を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大は、本研究に2つの影響を及ぼした。1つは、本研究に関わる新たな動きが見られたり、もともと見られていた動きが加速したことである。具体的には、(不安定「雇用」層ではないが)不安定層である非雇用労働者に関する社会保障給付の人的適用範囲の拡大である。これについては、2020年度に日仏比較を踏まえて検討を行い、これにより、本研究の問題意識を広げることができ、より広い視野から検討することができたといえる。もう1つは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、フランスに滞在しての現地調査ができなくなったことである。このことは、フランスの動向把握や制度分析の遅れを生じさせた。 上記2点目により、不安定雇用層の重要なカテゴリーである「非正規労働者」「長期失業者」「若年無業者」の検討を、十分に行うことができなかった。そのため、本研究の進捗は「やや遅れている」。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、不安定雇用層のうち「非正規労働者」「長期失業者」「若年無業者」に対する法制度についても研究を推進する。その際、社会保障法・労働法の観点からは、それぞれ次の点に着目したい。 社会保障法の観点からは、「社会保障による所得保障とその財源」である。労働形態の多様化・不安定化のなかで、「フルタイムの正社員」を適用対象とし、「社会保険料を主たる財源」としてきた社会保障制度は転換期を迎えている。こうしたなか、フランスでは社会保険制度の税財源化と保障対象の拡大(例えば、フルタイムの正社員以外も失業保険の対象に組み込む動き)がみられている。 労働法の観点からは、1.マクロン新政権下のもとで設けられた雇用職能パス(転職できるような職能を身に付けられる職業研修の提供と、公共職業安定所による必要なフォローを行う制度)と、2.雇用される側の能動的な活動を安定雇用に結びつける取組み(職業訓練や、職業訓練の受講を促進する労働者の諸権利)である。 これら社会保障法・労働法においてフランスで見られているいずれの動きも、本研究に大きく関わるのに対し、わが国では詳細な先行研究がみられていないため、これらの詳細解明に努めたい。
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Causes of Carryover |
本研究は、フランス法制の比較研究を重要な柱としているが、コロナウイルスの感染拡大を受けて、1.フランスへの在外出張を見送ったことで外国旅費を使用せず、2.フランスの書籍についても到着に大幅な遅れが生じた。これらの理由により、外国旅費や図書購入費について、次年度使用額が生じた。 使用計画としては、コロナウイルスの影響が終息した際に、あらためてフランスへの在外出張を計画し、フランス人研究者と意見交換・議論を行うことや、フランスの関連制度にかかる文献・資料の購入に充てたいと考えている。
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Remarks |
Association Francaise de Droit du Travail et de la Securite Sociale(AFDT)のサイト内に、La modification - temporaire ? - du champ d'application personnel des assurances sociales au Japonという短文を掲載した。
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Research Products
(3 results)