2019 Fiscal Year Research-status Report
GPSテクノロジーを使用した犯罪者監視システムの我が国への導入可能性の検証
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17K03435
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
甘利 航司 國學院大學, 法学部, 教授 (00456295)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 監視 / 犯罪者の社会復帰 / GPS / 刑事制裁 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子監視は、1960年代に登場し、1980年代に実施に至って以降、常に展開してきた。しかし、何故、そのようなことを行って良いのかという倫理的な問題については等閑視されてきた。そして、本研究が直接の対象とする「GPS型電子監視(GPS Monitoring)」は1990年代中旬に登場し、そこでは、監視のレベルが非常に高度になっている。それは、対象者(offender)を24時間体制で、しかもピンポイントで居場所を監視するというものであるからである。そして、このGPS型電子監視は、性犯罪者に対する刑期終了後のサンクションとして(つまり、日本的な言い方では「保安処分として」)展開し、欧米では、性犯罪(特に子供に対する性犯罪)が社会問題化するにつれて、異常なまでの期待を受けて拡大・展開していった。欧米諸国やいくつかのアジア諸国では、性犯罪者に対するGPS型電子監視を実施するに至っている。 しかし、その効果があると統計的に示したものは、管見の限り、存在しない。アメリカでは、GPS型電子監視が非常にコスト高であるため、それに見合う経済的価値があるかという視点から、GPS型電子監視の犯罪防止効果を分析した報告書が存在する。そういったものを解析すると、再犯防止効果が存在しないことが判明する。そして、そういった分析を前提にしているわけではないが、心理学サイドからは、GPS型電子監視によって再犯を防止を企図するのではなく、むしろ対象者にとって必要なサポートをすることが、最も効果があるという指摘がなされている。本研究も、このような議論こそが重要ではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、電子監視、就中、GPS型電子監視に焦点をあてている。まず、これがどのように登場し、そして発展してきたかを明らかにすることができた。特に、考案者が最初期に書いた論考を手に入れ、それを分析できたことが大きい。また、この内容については、欧米のこの領域について専門的に研究されている方にもご意見を頂戴し、分析内容の精度を高めることができた。 GPS型電子監視については、通常のRF型の電子監視を含め、それが対象者の居場所を把握するだけではなく、むしろその本旨は、対象者の行動を変える、というかなり積極的な意味合いがあることが判明した。また、更につきつめると、研究者サイドから、対象者の行動を変えるという趣旨から、より直接的に、対象者の身体へのインプラント(更には脳内へのインプラント)の問題があるということを詳らかにすることができた。 そして、以上のような過激ともいえる議論を展開しないまでも、実務家サイドから、対象者の身体(手首の周辺が想定されている。)へのインプラントにより、対象者の血中アルコール濃度の監視をするといったかたちで、広範なまでの監視までもが議論されることがあり、本研究は、当初の予想を越えて、GPS型電子監視の議論の射程の広さを示すことができた、 以上の内容については、2018年12月には日本犯罪心理学会において、シンポジウムの登壇者として報告の機会を頂き、議論の射程の広範さを示すことができた。そして、更に、2019年5月においては、日本刑法学会において個別報告の機会を頂き、ここでの議論の延長として、実際に日本でも導入可能である領域について、本研究のスタンスを示すことができた。 以上の通り、本研究は、当初の考えていたものを越えて研究を進展させることができた部分もあるが、他方で、諸外国の制度の比較といったものは、やや遅れているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、電子監視研究の発展形態として、GPS型電子監視に焦点をあてたものであった。諸外国の現状を明らかにし、問題点としてあるものを白日のもとにさらすことができたと考えている。そこでは、単に、犯罪者の再犯防止を企図するだけの「肯定説」でもなく、そして、人権上の問題に言及するだけの「否定説」でもないものを示すことができたと考えている。 しかし、今までの研究では十分ではない箇所も存在する。それは、本研究は、刑罰として、もしくは刑罰に付加される「保安処分」としてのGPS型電子監視であったということである。つまり、あくまでも「刑事制裁」という問題領域に過ぎなかったのである。ところが、日本での近時の議論としては、未決の領域であった。未決(拘禁)は、当然であるが、刑事制裁ではなく、また、本研究が土台としている「犯罪者の社会復帰」といった議論とは連動しない。そこで次なる研究として、未決領域でのGPS型電子監視の問題がある。 そして、以上の点に関して、欧米で盛んに議論されるようになったのが、DV・ストーカー事案と呼ばれるケースにおいて、対象者にGPS型電子監視を付加し、被害者を保護する制度の問題である。これは、導入国において、比較的、肯定的な評価を受けている。今後は、この問題を扱う必要があると考えられる。
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Causes of Carryover |
GPS型電子監視の研究においては、従来は、性犯罪者に付加する場合が非常に着目されてきた。それは、特に、拘禁刑執行後の実施であり、保安処分である。ところが、研究の後半時期に、未決段階での実施がにわかに注目を浴びるようになった。それは、保釈時に逃亡する場合である。そして、研究代表者は、学会報告において、未決段階における、暴力を伴うストーカー事案への対処としてのGPS型電子監視の議論を展開した。ここも同様に「未決」である。以上の通り、更なる検討として、未決段階での使用の研究を、やや喫緊ともいってよいのであるが、続けて行う必要が出て来た。そこで、2020年度に行われる、CEP(ヨーロッパ保護観察協議会)での議論を検討し(当初は5月であったが12月に変更となった。)、できるだけ早急に論考を公刊する予定である。
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Research Products
(1 results)