2020 Fiscal Year Research-status Report
会社法上の債権者保護規定を通じた従業員の保護に関する研究
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17K03468
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
高木 康衣 熊本大学, 熊本創生推進機構, 准教授 (60435120)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 会社法350条 / 企業責任 / 債権者保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度においては、本研究の最終年度として、会社法上の債権者保護を図る規定のうち、従業員が自らの権利侵害がなされた場合に会社に責任を追求する手段として用いられることの多い会社法350条に関する論考の執筆、学会での報告を実施する予定であった。 しかしながら、令和2年3月以降、急速に全国的に広がった新型コロナウイルス感染症により、本来報告予定であった学会、参加予定であった研究会が中止されたことで、学会報告は延期せざるをえなくなった。そのため、当初予定であった研究成果の公表のための報告は実施できなかった。 研究成果としての論考等の出版物の発行について、令和2年5月には、丸山秀平・藤嶋肇・首藤優との共著として『全訂株式会社法概論』(中央経済社)を刊行し、組織再編制度の項などを執筆して債権者保護の制度にも触れている。 また、本来であればこの3月に発行予定であった書籍の発行について、やはり新型コロナ感染症の拡大に伴う令和2年度の緊急事態宣言下での各種の活動自粛のために遅れているところではあるが、すでに第二校まで進んでおり、令和3年夏には砂田太士・久保寛展・高橋公忠・片木晴彦・德本穣編『企業法の改正課題』(法律文化社、2021年刊行予定)において、「会社法350条の責任―債権者別にみた運用事例と令和元年改正との関係について」として公表予定である。同論文の内容として、令和2年6月1日から施行された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「改正労働施策総合推進法 」)」との関係から、会社法350条による責任追及を免れるためには会社(代表者)がどのような対応を行う必要があるかを、示すことまではできている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の拡大により、研究作業としての資料の収集について、外部の図書館の利用が制限されたことにより、資料の入手が困難となるといった障壁が生じた。また、「研究実績の概要」においてもすでに述べたところであるが、学会・研究会が中止され、書籍の刊行スケジュールにも遅れが生じたことから、意見交換の作業にも一定期間、支障が生じ、また研究成果の公表に遅れが生じた。 意見交換の作業については、Zoomを通じた研究者意見交換や、学内の研究者との意見交換を通じて多少の遅れは取り戻すことができたように思われる。ただし、研究成果の公表については、現実に寄稿した書籍の発行日が遅れ、学会報告が未了となっていることから、研究機関を延長しており、現状としては進捗は遅れていると評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
「従業員の保護」を研究テーマとしていたが、従業員のみならず、様々なステイクホルダーに対して、企業が、会社法上の債権者保護規定を通じてどこまで責任を果たすことができるのかを検討する方向へと進んでいる。 企業がその活動を拡大するほどに企業価値が上昇し続けると考えれば、株主利益の最大化を図ることがステイクホルダー全体の利益を図ることにもつながり得るとの前提が確かに認められるように思われる。 しかし、世界全体の環境変動の問題の顕在化を通じて、企業活動の無制限な拡大を許容することの困難がすでに示されつつある中では、株主利益の最大化を図ることを第一義として会社法における「公正」を考えることはもはや不可能なのではないだろうか。とはいえ、株主利益に代えて「従業員利益」を第一とすべきかというとそうではないというのが、本研究を通じて「債権者」を多々見てきた結果としての、現時点における報告者の見解である。 従業員の利益も含めた、多様なステイクホルダーの利益調整を考える必要があるのではないか。その作用を担うものが、会社法の中にどのように組み込まれているのかの検討が、本研究から進む次の研究課題となってくる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの対面での研究会・学会が中止となったこと、また感染拡大地域への出張については極力控えざるを得ないと判断したことから、他の研究者との意見交換が十分に行えなかったため、次年度への延長を申請した。 令和3年度も引き続き感染症の拡大防止を第一とするために、対面での意見交換などは難しいものの、感染症対策が十分になされるなどすれば対面での活動を再開するとともに、オンラインでの研究会・学会報告、意見交換などを通じて、研究成果の公表を進めたい。
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Research Products
(1 results)
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[Book] 株式会社法概論2020
Author(s)
丸山秀平・藤嶋肇・髙木康衣・首藤優
Total Pages
345
Publisher
中央経済社
ISBN
978-4-502-34691-0