2017 Fiscal Year Research-status Report
環大西洋保守主義思想の形成と展開:社会改革思想との競合の思想史的検討
Project/Area Number |
17K03541
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
井上 弘貴 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (80366971)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 文雄 東北工業大学, 教職課程センター, 准教授 (40364400)
石川 敬史 帝京大学, 文学部, 准教授 (40374178)
清川 祥恵 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (50709871)
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80164698)
小野田 喜美雄 東北大学, 法学研究科, 特任フェロー (80754499)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 保守主義 / アメリカ政治思想史 / イギリス政治思想史 / 環大西洋 / 社会改革 / 知識人 / アメリカ研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
実施初年度である平成29年度、当初の計画に沿って第1回環大西洋保守主義研究会を夏に開催した(平成29年8月10日開催)。第1回研究会では本研究に各メンバーがどのように貢献できるかについて、さらには本研究におけるそれぞれの役割分担について全体で確認した。第1回研究会ではまた、George H. NashのThe Conservative Intellectual Movement in Americaの第4章、第7章、第8章を、担当者がレジュメをもとに報告しつつ参加者全員で議論した。それによって戦後アメリカにおける運動としての保守主義にみることのできる反共主義の強さ、ならびにこの反共主義を主導した知識人の多くが左派からの転向知識人であった事実を確認した。あるいはまた、この戦後アメリカ保守主義へのカトリシズムの思想的影響力、ならびにエリック・フェーゲリンやレオ・シュトラウスといったヨーロッパからの亡命知識人たちの思想の重要性が明らかにできた。 第2回研究会(平成30年3月2日)では、引き続きNashの課題図書の第1章、第5章、第6章を、担当者がレジュメをもとに報告しつつ参加者全員で議論した。これによって戦後アメリカにおける運動としての保守主義のなかに存在するリバータリアニズムと伝統主義との融合と対立の構図について理解を深めるとともに、1960年代から1970年代にかけての『ナショナル・レヴュー』誌の言論活動と同時代のアメリカ内外の政治状況との歴史的連環についての見通し、あるいはまた同誌に集った知識人たちとネオコンあるいはペイリオコンの潮流との関係をめぐる仮説的見通しを得ることができた。 総じて、本年度2回の研究会の開催をつうじて環大西洋的な観点からの保守主義思想の展開について共通理解を深めた。この理解の深化と並行して、各自それぞれの役割分担に沿って研究を遂行した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、大西洋を横断してグローバルに展開されたアメリカとイギリス双方の知識人たちの思想交流の解明をつうじて、とくにアメリカにおける保守主義思想が、(1) イギリスの思想的影響のもとで形成され、かつ、(2) 社会改革思想にたいする批判ないしは社会改革思想からの転向によって展開を遂げていったことを思想史的観点から明らかにすることを目指すものである。 (2)の側面については、平成29年度の2回の研究会をつうじて十分に明らかにすることができた。たとえば『ナショナル・レヴュー』誌に集った保守の知識人のひとりであるジェイムズ・バーナムは典型的な左翼からの転向知識人であるが、かれの経営者階級の理論は、連邦政府を現代のリヴァイアサンとしてみなす戦後アメリカの保守主義思想のリバータリアン的傾向を側面から支援する思想的源泉になっただけでなく、サミュエル・T・フランシスのようなペイリオコンの知識人にも継承された理論枠組みであることが、平成29年度の研究から明らかになった。この研究成果を研究代表者はすでに論文にまとめ、アメリカ学会の学会誌である『アメリカ研究』第52号に投稿している。 (1)の側面については、戦後アメリカ保守主義へのカトリシズムの思想的影響力という点で、本研究は間接的に平成29年度、すでに検討にとりかかっているが、主題的に検討することは十分にできなかった。環大西洋保守主義思想の展開の側面に比べて、その形成の側面の研究の推進については、次年度以降の課題である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度についても、平成29年度と同様に夏と年度末の2回、環大西洋保守主義研究会を開催し、研究を推進することを予定している。この2回の研究会では引き続き、本研究にとって重要な先行研究の精読によるメンバー間での共通理解の獲得にくわえて、各自の研究の進捗について確認するための報告の機会を得たいと考えている。平成30年度の研究会ではとくに、現在までの達成度の項目で上述したとおり、イギリスの思想的影響のもとでアメリカの保守主義思がどのように形成されてきたのかという側面について、さらに重点を置いて本研究を推進していく予定である。 なお、課題となっている上記の側面の進捗を確かなものにする人員を確保するために、研究協力者のなかで有力な人材を研究分担者に異動させる等、研究の推進に向けて積極的な戦略を採っていきたいと考える。 平成30年度はまた、当初の計画に沿って研究成果の発表にも注力をしていきたい。すでに平成29年度、たとえば研究代表者は政治思想学会第24回研究大会において「戦後アメリカ社会の変容と新保守主義――ニュー・クラスをめぐる議論を中心に」と題した報告を、慶応大学で開催されたアメリカ政治研究会では「トランプ登場後の保守主義思想の変容について――西海岸シュトラウス学派の動向を中心に」と題した報告をそれぞれおこない、研究成果の発表に努めている。平成30年度においては、具体的には社会思想史学会ならびに政治哲学研究会等におけるセッションの企画や研究報告をつうじて、研究成果の発表をさらに推進し、それによって各自の論文の執筆ならびに発表へと精力的につなげていきたい。
|
Causes of Carryover |
平成29年度は2回、神戸大学において環大西洋保守主義研究会を開催し、研究分担者ならびに研究協力者のメンバーには神戸への出張をお願いした。この研究会の開催を念頭に置いて当初、兵庫県外に居住している研究分担者ならびに研究協力者の神戸出張を想定した旅費を一定額計上したが、当該年度の第2回研究会において、研究分担者のなかで本務校の業務のために旅程を急きょ変更せざるを得なかった者が生じた。そのため、当初予定していた旅費のなかで未使用の額が生じたものである。 平成30年度においても、本研究では2回、神戸大学、あるいは研究分担者が在籍する関東圏の大学において環大西洋保守主義研究会を開催する予定である。平成29年度の未使用額については、平成30年度の研究会開催のための旅費に充て、前年度にも増して研究会の充実を図る。
|