2018 Fiscal Year Research-status Report
環大西洋保守主義思想の形成と展開:社会改革思想との競合の思想史的検討
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17K03541
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
井上 弘貴 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (80366971)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 文雄 東北工業大学, 教職課程センター, 准教授 (40364400)
石川 敬史 帝京大学, 文学部, 准教授 (40374178)
清川 祥恵 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (50709871)
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80164698)
小野田 喜美雄 東北大学, 法学研究科, 特任フェロー (80754499) [Withdrawn]
森 達也 早稲田大学, 政治経済学術院, 講師(任期付) (40588513)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 保守主義 / アメリカ政治思想史 / イギリス政治思想史 / 環大西洋 / 知識人 / キリスト教 / アメリカ研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は第3回環大西洋保守主義研究会を夏に開催し(平成30年8月10日)、Harvey C. Mansfield Jr.のAmerica's Constitutional Soulの第9章、ならびに研究分担者の野谷啓二の『オックスフォード運動と英文学』(開文社出版、2018年)を検討した。前者のテキストをつうじて、フェデラリストに代表されるアメリカ建国期の政治思想におけるヨーロッパ古典古代との連続と断絶について、後者のテキストをつうじて、19世紀イギリスにおけるカトリシズムの展開について、研究会メンバーは共通理解を得た。これによって環大西洋保守主義を考えるうえでの、アメリカ建国期の思想的重要性ならびに政治と宗教との関係の重要性について知見を得た。 第4回研究会(平成31年3月8日)では、研究分担者の石川敬史の『ニュクス』第5号(堀之内出版、2018年9月)所収論文である「収斂としてのアメリカ革命」をめぐって討議をおこなった。討議に際して、研究協力者の池田直樹(神戸大学大学院国際文化学研究科)が「『収斂としてのアメリカ革命』を読む」と題した報告をおこなった。あわせてこの第4回研究会では、研究協力者である相川裕亮(神奈川大学非常勤講師)が「ビリー・グラハムの「エキュメニズム」――マーク・ハットフィールドからの批判への応答」と題した報告をおこなった。前者の討議をつうじて、研究会メンバーはアメリカ建国期の政治思想におけるイギリスとの連続と断絶について理解をさらに深めた。後者の報告をつうじて、福音伝道者が戦後アメリカの保守主義に与えた影響について、とくにニクソン政権との関連について知見を得た。 総じて、年2回の研究会の開催をつうじて今年度も環大西洋的な観点からの保守主義思想の展開について共通理解を深めた。この理解の深化と並行して、各自それぞれの役割分担に沿って研究を遂行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、大西洋を横断してグローバルに展開されたアメリカとイギリス双方の知識人たちの思想交流の解明をつうじて、とくにアメリカにおける保守主義思想が、(1) イギリスの思想的影響のもとで形成され、かつ、(2) 社会改革思想にたいする批判ないしは社会改革思想からの転向によって展開を遂げていったことを思想史的観点から明らかにすることを目指すものである。 (1)の側面については今年度、研究分担者の野谷啓二が『オックスフォード運動と英文学』(開文社出版、2018年)を刊行し、また今年度から新たに研究分担者に加わった森達也が『思想の政治学――アイザィア・バーリン研究』(早稲田大学出版部、2018年)を刊行したことで、これらの研究成果から多くの知見を得ることができた。また、アメリカ建国期の政治思想におけるイギリスとの連続と断絶について、今年度の研究会から得られた共通理解を応用し、研究代表者は第38回政治哲学研究会(平成31年3月9日、京都府立大学)にて「エイブラハム・リンカンをめぐるアメリカ保守主義内の抗争――ハリー・V・ジャファとその競合者たち」と題した報告をおこなった。 (2)の側面については、昨年度の研究会で得られた理解を踏まえて、研究代表者は「ドナルド・トランプに先駆けた男――サミュエル・T・フランシスのペイリオ・コンサーヴァティズム」(『アメリカ研究』第52号)ならびに「リベラリズムに背いて――ネオコン第一世代による保守主義の模索」(『政治思想研究』第18号)を発表した。また、研究協力者の池田直樹は「アメリカ社会と正当化の危機――1970年代におけるP・L・バーガー」(『社会学史研究』第40号)を査読論文として発表している。このように、現在まで一定の進捗を得ており、今年度の研究会から得られた政治と宗教との関係にかんする知見を踏まえて、さらなる研究の推進を図っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度についても、平成30年度と同様に夏と年度末の2回、環大西洋保守主義研究会を開催し、研究を推進することを予定している。この2回の研究会では昨年度末に引き続き、研究会メンバー各自の研究の進捗について確認するための報告の機会を得たいと考えている。 最終年度である平成31年度の研究会ではとくに、これまでの研究の総括的課題として以下の二つの点について研究をとくに推進する。第一に、環大西洋の保守主義における建国期の重要性および独立革命からみえてくる英米の連続/断絶について考察を進めたい。この考察をつうじて、アメリカの戦後保守がこの建国期の経験から何を保守的な「価値」として見出してきたかについて、見通しを得ることができるはずである。 第二には、現在までの進捗状況の項目でも上述したとおり、政治と宗教との関係について、環大西洋保守主義思想の観点から考察をさらに前進させたい。この考察に際しては、ルター派からカトリックに改宗し、『ファースト・シングズ』誌を創刊するなど戦後アメリカの保守主義思想の形成に大きな足跡を遺したリチャード・ジョン・ニューハウスを検討の対象にすることなどを含めたいと考えている。 平成31年度においては、具体的には政治哲学研究会等における研究報告をつうじて、研究成果の発表をさらに推進し、それによって引き続き各自の論文の執筆ならびに発表へと精力的につなげていきたい。
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Causes of Carryover |
平成30年度において、年度途中で研究分担者1名の研究継続が難しいことが判明し、その者を研究分担者から外すことを余儀なくされた。着実に研究を遂行するため、新たな研究分担者を追加することになり、その新たな者に分担金を配分したものの、未使用の助成金が残ることになった。 このたびの未使用の助成金については翌年度、研究会開催時の講師招へいのための旅費に充て、研究会の充実を図るために使用する予定である。
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Research Products
(10 results)