2017 Fiscal Year Research-status Report
日本における保守主義の起源――福地源一郎を中心に――
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17K03549
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
河野 有理 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (50526465)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 実録体小説 / 舌耕文学 / 政治小説 / 実なるもの / 続きもの |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度にあたる本年度は、政治小説について考えるに際して、その源流の一つとも言うべき「実録体小説」についての研究に多くの時間を費やした。江戸中期以降、出版規制をかいくぐるために貸本屋を媒介として多くは写本の形態で広く流通した「実録体小説」は 、同時代の政治的事件や実在の歴史的事件に想を得つつも、講釈師や講談師によって上演される過程で様々なヴァリアントが生じ、大胆な脚色や改ざんを施した大部の物語へと「成長」していくのが常であった(「舌耕文学」)。かかる「実録もの」の流行は明治期にも続き、さらに明治期固有のメディアである新聞紙の「雑報」から生まれるいわゆる「つづきもの」と微妙な混線ないし混淆を遂げるに至る。「政治小説」の誕生については、従来、どちらかといえば、西洋のpolitical novelの影響が重視され、翻訳文学の潮流の中で理解されることが多かった。だが、本研究では、そうした潮流ももちろん軽視はしないものの、むしろ江戸期以来の「実録もの」ジャンルの盛行という視点から理解することを目指している。 本年度は、上記の過程を追跡するために好個の事例としてある実在の事件から生まれた「実録もの」作品をサンプルとして選び、各種ヴァリエーションの比較検討を含む、詳細な調査分析を行った。その結果、江戸中期から明治中期までの「物語」の誕生と増殖、分化と収斂、そして消滅の過程がかなりの精度で明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」でも述べた通り、政治小説の源流の一つとも言うべき「実録体小説」は、多くの場合、刊本ではなく写本で流通している。写本のということはつまり「くずし字」の読解は、申請者が専門的な訓練を必ずしも受けていない特殊な技能である。このため、調査の進展は当初の予定より後れを余儀なくされた。
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Strategy for Future Research Activity |
上記、「現在までの進捗状況」においても述べたように、「くずし字」その他、写本資料の読解が研究進展の上でのボトルネックであったが、幸いなことに専門的技能を持つ研究協力者の指導及び助力を得ることに成功した。来年度は、研究協力者の助力及び指導を仰ぎつつ写本資料の調査・分析を進めるとともに、いよいよ明治期の政治小説の研究に着手したいと考えている。
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