2018 Fiscal Year Research-status Report
日本における保守主義の起源――福地源一郎を中心に――
Project/Area Number |
17K03549
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
河野 有理 首都大学東京, 法学政治学研究科, 教授 (50526465)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 啓蒙 / 熟議 / 討論 / 大西祝 / 尊号一件 / 実録小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「尊号一件」の歴史的記憶の形成過程について考察を行い、一定の成果を収めた(「福地桜痴と「尊号一件の百年」『天皇の近代』、2018年)。「尊号一件」とは、狭義には、光格天皇の実父に対する尊称の是非をめぐる問題であり、単なる儀礼的問題に一見すると見える。だが、これは「禁裏」から「関東」への「委任」の有無と範囲をめぐる議論、すなわち統治の「尊厳的部分」として明確に「天皇」(長く途絶した「天皇」号を復活させるのも光格である)を位置づけ、そのことによって「実効的部分」たる「幕府」統治の機能を円滑かつ効率的ならしめようという当時最新の政治理論たる「大政委任」論をめぐる大きな潮流の一部であった。 この尊厳的部分としての「天皇」と実効的部分としての「幕府」という棲み分けは、明治期には「密教」たる天皇機関説として、1946年以降は「象徴天皇制」として再び「顕教」として復活することからも伺えるように、その後の二百年を規定した。尊号一件の起きた1788年は、その意味で、いわば我が国の「初期近代」の開幕を告げる年であると言えよう。 福地桜痴は、明治20(1887)年、この事件を『尊号美談』として、「政治・歴史小説」に翻案している。報告者は、福地が入手したと思しき一次資料(江戸後期に流通した実録小説の元ネタとなった出所不明な暴露的文書)を検討した上で、福地の「翻案」が持っていた思想史的含意について正確に測定することを試みたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、「尊号一件」をめぐる歴史的記憶を手がかりにして、保守主義と演劇的熟議の関係について考察を行い、一定の成果を得た。しかし、その過程で、明治中期の保守主義の位相を明らかにするためにそれが対決した諸思想についてより詳細に分析する必要を感じた。当初計画には予定されていない「寄り道」がしかし必要不可欠になってしまったのである。進捗状況について「やや遅れている」とする所以である。 具体的には、当時の「急進論」と「漸進論」(言うまでもなく後者が福地桜痴の立場である)を批判的に眺め、そこに「啓蒙」として自らの立場を対抗的に規定しようとした、「明治30年の啓蒙主義者」大西祝の議論の検討に時間を割かれることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、積み残している中国大陸や朝鮮半島あるいは西洋での「政治小説」研究のサーベイまた、現代政治理論における「熟議論」のサーベイを精力的に行なっていきたい。
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[Book] 天皇の近代2018
Author(s)
御厨 貴
Total Pages
360
Publisher
千倉書房
ISBN
978-4-8051-1159-8