2017 Fiscal Year Research-status Report
EU policy of the EFTA countries
Project/Area Number |
17K03601
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Research Institution | Toyo Eiwa University |
Principal Investigator |
小久保 康之 東洋英和女学院大学, 国際社会学部, 教授 (60221959)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スイス / EU / 人の自由移動 / 英国のEU離脱 / 国民投票 |
Outline of Annual Research Achievements |
スイス国民党(SVP)が主導する大量移民規制を定める憲法改正案が2014年2月9日の国民投票で可決されたことに伴い、人の自由移動について合意した1999年のスイス・EU双務協定に祖語が生じ、スイスは対EU関係の悪化が懸念される事態に陥っていた。移民規制について新たに導入された憲法121a条とその関連条文では、3年以内に移民規制に関する法律を定めることや、121a条に抵触する国際条約を再交渉することが規定されていた。スイス政府は、EUとの双務条約の再交渉の余地を探るが、EU側は「人の自由移動」はEU市場の根幹を構成する要素であり、再交渉には応じられないとし、更に、英国が2016年6月の国民投票でEU離脱派が勝利を収めたことにより、非EU加盟国であるスイスとの再交渉が英国のEU離脱交渉に影響を与える事を恐れ、スイスとの正式な再交渉には一切応じないとの姿勢を崩さなかった。 スイス政府は、2016年3月に移民規制に関する法案を提出するが、連邦議会はそれを否決し、同年12月16日に急進民主党と社会党が中心となって提出した「外国人に関する連邦法」が連邦議会で可決された。同法は、明確な形で移民規制を行うことを避け、スイス人の就労機会を優先させることに限定するものであり、憲法121a条は骨抜きにされた。同法に関する政令が2017年12月に発令され、2018年7月1日より、失業率が8%を超える業種について、スイス人失業者に優先的に雇用案内が提示されること、2020年1月からは失業率が5%を超える業種に適用されることなどが定められた。 EU側は、スイスのこれらの一方的な措置がスイス・EU間の人の自由移動を妨げるものではないとして歓迎し、スイス・EU関係の悪化は回避された。この一連の動きから、非EU加盟国であるスイスがEUの基本原則に従わざるを得ない状況にある実態を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画では、2017年9月の現地調査でスイス・EU関係の現状を明らかにする予定であったが、「人の自由移動」をめぐるスイス側の対応が、2017年12月に発令される政令を待たざるを得ず、また、移民規制を導入したスイス憲法121a条自体の削除を求める国民投票の可能性が残されていたため、2017年中に研究成果をまとめることが出来なかった。2017年12月に政令が公布され、また新たな国民投票の実施が見送られることが確実になったのが2017年12月に入ってからであり、それらの動向についてまだ確実な状況を把握できていないこと、更に、2018年に入ってからスイス側が対EU政策を活性化させている状況についても情報収集を更に進める必要が生じてきた。 このように不確定要素が多くあったため、スイス・EU関係の全容を2017年度中に研究成果として公表することができなかった。「人の自由移動」に関するスイス・EU関係については、2018年7月に新たな政令が適用される段階で一段落すると思われるので、2018年度中に研究成果を何らかの形で公表したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
スイスの対EU政策については、2017年9月の現地調査を基礎とし、その後の経過について追跡調査することにより、「人の自由移動」を巡る争点については、2018年夏頃までに一定の方向性が指摘できると考えており、その時点までに「人の自由移動を巡るスイス・EU関係」として研究成果をまとめたいと考えている。同時に、スイスが「バイラテラルⅢ」と呼んでいる、EUとの機構問題を巡る双務協定の行方についても調査を進めたい。これらは、スイスが巨大なEU市場との円滑な関係を維持しなければ、同国が政治的・経済的に存続が難しくなっていることを示すものであり、非EU加盟国ではあるが、EU周辺国であるスイスが、EU統合と足並みを揃えざるを得ないこと、更にはEUとの関係維持を巡るスイス国内での対立激化が、同国の伝統的な国内政治の特徴である半直接民主主義制度に何らかの変容をもたらす可能性があることなど、国境を越えた様々な自由移動が進む国際社会における小国の動向について考察を進めたい。 また2018年度は、当初計画では、スイスと関税同盟を結んでいる極小国であるリヒテンシュタインがEUとどのような関係維持を模索しているのかを調査する予定になっている。昨年度の現地調査において、リヒテンシュタインのEU代表部にもヒヤリングに行っており、予備的な調査は始めているが、本年度は本格的にリヒテンシュタインに赴き、対EU関係を司る関係者に面談調査を実施し、同国が極小国として、どのようにEUの巨大市場と向き合っているのか、国家として存続するためにどのような政策を展開しているのか、その限界はどこに見られるのか、といった諸点について、主としてリヒテンシュタインの政治・外交の視点から解き明かしてみたいと考えている。
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