2020 Fiscal Year Research-status Report
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17K03641
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鍋島 直樹 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (70251733)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 経済学史 / 政治経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度には、ケインズの経済政策論について検討するとともに、それを通じて資本主義の改革に関する彼のビジョンを明らかにしようと試みた。 ケインズは、失業・不況・所得不平等といった資本主義経済の生み出すさまざまな弊害を克服するための方策として、国家が長期的な視野から経済全体の投資水準を管理する「投資の社会化」、長期にわたって金利の水準を徐々に引き下げていく「金利生活者の安楽死」、所得再分配による不平等の縮小などを提唱していた。とりわけ彼は、第二次世界大戦後のイギリス経済において持続的な完全雇用を達成するための手段として投資の国家管理を重視し、総投資の3分の2から4分の3が公的ないしは準公的な管理のもとに置かれるべきであると主張した。このようなケインズの政策提案は、一般に「ケインズ政策」として知られている政策よりも、はるかに急進的な内容をもつものであり、それは資本主義経済の根本的な改革を意図するものであった。 こうしてケインズは、19世紀型の自由放任資本主義から脱却し、国家の積極的な介入によって社会的公正と社会的安定の実現をめざす「管理された資本主義」へと転換することを広く訴えた。彼は、個人的自由を尊重しつつも国家の経済的介入を拡大しようとする自らの政治的立場を「ニュー・リベラリズム」または「自由社会主義」と呼んでいる。このようなケインズの思想は、戦後のヨーロッパ諸国において広く受容された社会民主主義の一形態をなすものと見ることができる。したがって近年では、ケインズの政治思想を「非マルクス主義的社会主義」の一つと位置づける研究も少なからず存在している。 金融危機の頻発や所得格差の拡大などを受けて新自由主義政策の限界が叫ばれる今、これからの資本主義が進むべき方向を探るうえで、ケインズの思想は多くの示唆をわれわれに与えてくれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主たる目的は、学説史的展望にもとづき、ポスト・ケインズ派経済学の形成・発展の過程について考察するとともに、その今日的な意義と可能性を闡明しようとする点にある。この目的を達成するため、2020年度には、ケインズの経済政策論について検討を加えることを通じて、資本主義経済の改革に関する彼のビジョンを究明することに努めた。その成果は、近く論文の形にまとめて公表する予定である。これまでの成果にもとづき、ポスト・ケインズ派の理論・方法・政策についての検討を、今後さらに進めていくことができるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を踏まえて、ポスト・ケインズ派経済学の形成と発展の過程についての考察を進めていく。それと併せて、ケインズとカレツキの学説史的検討、ラディカル政治経済学の新動向の把握などの作業も並行して進めていく。研究期間全体を通じて、経済学における過去と現代のあいだの往復作業を続けてきたが、2021年度は最終年度となるので、ポスト・ケインズ派経済学の今日的可能性について広い視野から検討を進め、研究成果をまとめるように努めたい。
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Causes of Carryover |
2020年度には、ほぼ計画通りに研究費を使用し、その結果、198,158円を繰り越すこととなった。繰り越しが生じたのは、学会や研究会などがほとんどオンラインでの開催となり、旅費の支出がなかったことによる。 2021年度についても当初の申請からの変更はない。研究費の大部分を経済理論・経済学史関係図書の購入に充てるとともに、必要に応じて、資料収集のための国内旅費、および謝金などの支出を行なう予定である。
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