2020 Fiscal Year Research-status Report
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17K03691
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
釣 雅雄 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (60401642)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 政府支出 / 過剰消費 / 社会保障 / 価値財 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度から引き続き,社会保障を中止とした国の財政支出が民間消費に与える影響を分析した。ドイツの経済学者リチャード・マスグレイブは教育や医療保険にかかる財政支出を価値財(merit goods)と読んだ。Fioritoa and Kollintzas(2004)では,価値財が民間消費と補完関係にあることを,ヨーロッパ12カ国のパネル分析により示した。日本において,厳しい財政状況の中で赤字国債などの公債発行により社会保障費を増大させた場合,高齢者が年金,医療,介護など社会保障サービスを過小負担で受けられる。社会保障費は価値財と捉えられるから,民間消費と補完的となり,高齢者は将来の負担をサービス相当には準備する必要が無くなるため,全体として消費が過剰となるのである。 本研究の目的は,若年世代の消費行動も考慮した全世代合計でも過剰消費が発生しているかを分析することで,時間を通じた民間消費と所得の関係を導き出すことである。そこで,一方の若年世代の消費を踏まえてもなお過剰消費となるかどうかをみた。分析結果によると,政府債務が増大した者の日本銀行の金融緩和政策の継続により低金利が継続したため,将来の債務増大と民間の利子負担増などが軽減された。そのため,相対的に世代間の格差は拡大していない。そのため,本研究の高齢者の過剰消費は継続しつつ,若年世代の消費も抑制されなかった。 ただし,新型コロナウィルス感染症拡大に対応するため,財政支出増加が見込まれている。このことは低金利のもとであっても将来負担の増加が意識されることにつながる。引き続き,宮崎・大久保・釣(2015)の分析をベースに地域ごとの違いを整理して,地域の高齢者率の違いが政府支出の相対的な違いをもたらしていることをみていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,昨年度から引き続き研究担当者が本務校の大学院研究科長であったため,大学の管理運営業務に多くの時間を割くこととなった。加えて,新型コロナウィルス感染症拡大への対応を個人担当授業等のみならず,研究科における授業,入試,国際など様々な対応が必要となった。そのため,研究が遅れる結果となり,当初計画をさらに延長して引き続き令和3年度も研究を継続する。 研究内容については,我が国財政が新型コロナウイルス感染拡大に対する対応で,令和2年度の財政支出が通常に比べて倍増するなど,本研究の当初計画時と異なる状況になっている。このような,財政に収支バランスの赤字拡大を踏まえて,財政状況と消費の関係という点からの状況を分析する必要がある。加えて,一人当たり10万円の特別定額給付金など,当初計画とは異なるが,本研究との関連があると思われる政策もある。これらの要素を分析に追加することで,過剰消費の分析がすすむことも考えられる。本分析の重要な論点は,社会保障費の増大は高齢者世帯の生活や健康を支えているが,その費用負担が必ずしも中立命題が成立するような形で若年者世帯にかかってはいないかどうかである。マクロ経済でみると政府支出の増大が完全には民間消費を相殺せず,過剰消費を生み出していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのデータ整理,シミュレーション分析の結果を発表し,論文の形にまとめていく。また,低インフレと拡張的な金融政策が継続している状況を踏まえて,現在までのデータについても再度分析を行うことで,政策と過剰消費の関係をより明らかにしていく。遅れているモデル分析を行い,それに基づき財政支出の性質別にグループ化した上で,その性質別に見た民間消費との関係性を明らかにする。引き続き,社会保障の将来推計と政府債務から推計される利払費から,社会保障と財政動向との関係を求める。 本研究では民間消費との関係は財支出の種類によって異なると考えている。Keho(2019)が西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)のデータを用いて,Common Correlated Effects Mean Group estimatorにより推計したところ,国によって異なる結果を報告している。この手法を日本地域データにより分析することで,長期関係から同様の結果が得られることが考えられるため,分析の準備しているところである。 またSoldatos(2020)では,a Lindahl-Foley 環境において価値財が民間財と同等になることを示した上で課税の影響を分析したが,日本では消費税率の引き上げがあったので,このような分析を応用できないかを検討している。
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Causes of Carryover |
昨年度から引き続き研究担当者が本務校の大学院研究科長であったため,大学の管理運営業務に多くの時間を割くこととなった。加えて,新型コロナウィルス感染症拡大への対応を個人担当授業等のみならず,研究科における授業,入試,国際など様々な対応が必要となった。研究発表のための旅費支出等ができず,次年度において研究を継続することとなった。引き続き旅費支出が難しいため,その分はオンライン対応のための機材やソフトウェア支出にあてる。
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