2019 Fiscal Year Research-status Report
就業目的が異なる非正規雇用者の下で政策が労働力に与える量・質的影響の理論的考察
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17K03779
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
増井 淳 創価大学, 経済学部, 准教授 (50409778)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 政府による訓練費用負担 / 社会厚生の増加 / 非正規雇用者への訓練提供 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の前半では、企業が非正規職と正規職を内生的に選択可能な状況下で、どのような場合に多くの非正規雇用者が企業による訓練投資に参加するかを分析した。前年度から追加的に行ったことは、非正規職の雇用期間の長さを左右する更新頻度の変更が労働市場環境に与える影響に関する考察である。日本を含めた多くの先進諸国において、企業側が非正規職を利用する際の契約更新頻度や最長契約年数が定められている。企業は、より安定的な雇用環境の下で訓練を行う動機を持ちやすいと考えられるため、契約更新頻度を減らし契約期間が伸ばす政策が社会的に望ましいと感じられるかもしれない。しかし分析の結果、むしろ契約更新頻度を伸ばし積極的に非正規から正規への転換を促す方が、非正規職で働く労働者の訓練参加率および社会厚生を増加させることが明らかとなった。これは、契約期間を延ばすことで返って非正規職の雇用の不安定性が増すためであると考えられる。 当該年度後半では、生産性が異なる労働者による労働市場参入行動に関する分析を行った。先行研究によれば、事前の生産性が異なる労働者を想定する場合、標準的な理論モデルにおいて市場均衡の社会的効率性を保証するホシオス条件の下でも、企業の過剰参入が発生することが知られている。これに対し本研究では、労働者が高生産性グループと低生産性グループに分かれ、各グループに属する労働者の生産性が異なる分布に従う場合、前述のホシオス条件の下で企業の参入は過剰にも過少にもなり得ることを示した。企業参入の多寡に応じて採用するべき政策の方向性は大きく異なるため、どのような状況において過剰参入・過少参入が起きるかを理解しておくことは非常に重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究が予定よりもやや遅れている理由は下記の2点である。 第1に、今年度に行く予定であった在外研究(ハワイ大学東西研究センター)の準備に時間を割く必要があったことが挙げられる。結果的に、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で渡航できていない状況にあるが、特にVISAの取得に関する一連の手続きに多大な時間と労力を費やし、研究に割く時間が限られてしまった。 第2に、本研究課題とは別に取り組んでいる論文の改訂に時間を要したことが挙げられる。国際雑誌に投稿中の論文に対して査読者からなされた指摘へ対応するために、予想よりも多くの時間が必要であった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた働き手の非労働力-労働力間の移行を考慮した分析では、労働市場への参入に関する意思決定と参入した場合の雇用形態の選択を同時に取り入れることを予定していた。しかし、その後の文献調査によると、これらの意思決定を同時に理論モデルに組み込むことは分析を著しく複雑化する可能性が高い。そこで、本研究では以下の様に方向性を変更することにした。 第1に、労働市場参加に伴うコストの異質性および労働者の学歴の違い(事前の生産性が異質である状況)を取り入れ、日本における高学歴女性の労働市場参加率が低い状況を説明可能な理論モデルの構築を試みる。その際、正規・非正規といった雇用形態の異質性は取り入れないが、可能であれば高学歴労働者向けの職・低学歴労働者向けの職などの職の異質性を導入する形でモデルを拡張することは検討している。 第2に、高学歴の女性労働者であっても非正規職に就く割合が日本において高いという先行研究を踏まえ、学歴が異なる労働者の雇用形態選択に注目をした研究を行う。その際、労働市場への参加に関する意思決定は考慮しない。この課題は学歴ミスマッチ・教育過剰といったトピックと関連しており、それらの先行研究を精査しながら必要な要素を理論モデルに取り入れていく。 いずれの研究課題でも、構築した理論モデルが日本の状況に適合するかを確認し、明確な政策効果を導くためにカリブレーションを行う。政策効果の検証に当たっては、給与税や労働者・企業への様々な補助金の存在を政府の予算制約と共に導入する。
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Causes of Carryover |
当該年度の使用額は当初の予定とあまり差はなかったが、それ以前の年度における使用額が少なかったため、未使用の助成金が生じることとなった。 翌年度は、新型コロナウィルス蔓延の影響および在外研究(2021年3月末まで)に行くことを想定して、本研究課題を休止させていただくこととなっている。なぜなら、本課題における助成金の主な使途は国内外の研究報告に伴う旅費となっており、上記の状況では消化することが難しいためである。 再開後は、国際学会での報告および論文の英文校正に助成金を充てる予定である。
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