2020 Fiscal Year Research-status Report
就業目的が異なる非正規雇用者の下で政策が労働力に与える量・質的影響の理論的考察
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17K03779
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
増井 淳 創価大学, 経済学部, 准教授 (50409778)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 市場均衡の社会的効率性 / 女性の労働市場参加 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度前半では、生産性が異なる労働者による労働市場への参入行動について分析を行った。先行研究によると、労働者の生産性がジョブ・マッチ形成以前の段階で異なる場合、市場均衡の社会的効率性を保証するホシオス条件の下でも、企業の参入が効率的水準と比べて過剰になることが知られている。これに対し本研究では、労働者が高生産性グループと低生産性グループに分かれ、各グループの労働者の生産性が異なる分布に従う場合、前述のホシオス条件の下で企業の参入は過剰にも過少にもなり得ることを示した。 当該年度後半では、労働者の事前の生産性が異質である状況に加え、労働市場への参加に伴うコストが確率的に変化する状況を取り入れ、女性の労働市場参加率が低い状況をどうしたら改善できるかを分析した。特に、女性が結婚や出産等のイベントを迎えると労働市場参加に伴うコストが高まることを踏まえ、男性の育児休暇取得促進や待機児童数減少を目指す施策が、女性の労働市場参加に関する意思決定や労働の平均生産性、及び社会厚生に及ぼす影響を調べた。構築された理論モデルをベースとして日本の労働市場を念頭に置いたカリブレーションを行った結果、主に以下の結果を得た。 (1) 結婚や出産を通じて被る参加コストの減少は、労働市場に参加する者の割合、就業率、労働の平均生産性、及び社会厚生をいずれも増加させる。 (2) 参加コストが高い状態から低い状態へと移行する可能性が高まると、基本的に (1) と同じ結果が得られるが、結婚・出産等のイベントや景気悪化に伴う離職が起きた場合に労働市場に留まろうとする者の割合は低下する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗がやや遅れている理由として、下記の2点が挙げられる。 (1) ジャーナルに投稿中の論文の改訂に予想以上の時間を要したためである。これは、レフェリーの指摘を受けて理論パートを修正したことにより、その後の数値計算を全てやり直す必要性が生じたことによる。 (2) 2021年度前期に新規で必修科目を担当することになり、オンライン対応を含めた準備にかなりの時間を要したためである。応募者はこれまで当該科目を担当した経験がなく、講義資料等を最初から作り込まなければならなかったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度後半で行った研究にはまだ改訂の余地があり、今年度の前半はそちらの作業に引き続き取り組む予定である。まず、モデルから導かれた市場均衡が社会的に効率的であるかどうかを理論的に検証する。労働市場への参加に関する意思決定が内生化されている場合、労働者の生産性が事前に異質的であると、実現する労働市場の均衡は社会的に非効率的になることを示した先行研究が存在する。この結果が本研究の設定の下でも成立するかを確認し、もし非効率的であることが示されたならばどのような課税と補助金の組み合わせが効率性の改善に繋がるかを明らかにしたい。特に、結婚・出産等の高参加コストの状態へ移行する場合に所得税が減税される状況を導入し、その税率をどう設定すべきかについて議論する。
本年度の後半では、勤続年数に応じて変化する退職金を考慮した理論モデルを扱い、正規・非正規の両契約形態が共存する状況よりも単一の雇用契約のみが存在する状況の方が、企業にとって好ましくなり得るかを検討する。元々、非正規雇用者への企業内訓練提供の議論と合わせてこの点を分析する予定であったが、正規雇用・非正規雇用の共存と企業による労働者への訓練提供を組み合わせた研究を行った際に当初の想定以上にモデルが複雑化したため、内容を分けることにした次第である。依然として正規雇用と非正規雇用の間には雇用保護の度合いや所得水準に関して大きな差があるため、それらを埋めつつ、同時に社会厚生を高められるような雇用制度のあり方を検討していきたい。
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Causes of Carryover |
2020年度中に在外研究に行くことになっており、その期間は補助事業を中断する予定であった。しかしコロナ禍で急遽渡航が延期となり、最終的に渡航中止が決定したのは2020年の9月であった。本研究課題に関連する支出で最も大きな割合を占めるのは研究出張に伴う旅費であるが、渡航中止決定後の研究再開時期が遅かったこと、また海外での研究報告が困難であったことから次年度使用額が生じることとなった。 依然として移動を伴う国外出張は困難な状況にあるため、今年度は執筆した論文の英文校正及び租税制度やジェンダー問題に関連する書籍の購入に助成金を充てる予定である。
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