2019 Fiscal Year Research-status Report
我が国製造業のサービス化と収益化シナリオに関する研究
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17K03938
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
鴨志田 晃 横浜市立大学, 国際商学部, 教授 (00444117)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 製造業のサービス化 / 競争戦略 / サービス化の類型化 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国産業の収益性は、1960年から40年以上に亘り一貫して低下してきたことが指摘されている。特に製造業の低下幅は大きく、1960年当時の製造業の売上高利益率は平均で10%を超えていたにも関わらず、2000年には4%を下回り、非製造業と同水準にまで下がった[Grochnik,2008]。一方、2000年以降、製造機能以外の「サービス化」で収益力を向上させる製造企業が出現するようになった。本研究は、我が国製造業のサービス化の実態を類型化した上で、サービス化に向けた我が国製造業の課題と戦略について電機・重電産業を中心に分析を行い、併せて我が国製造業の国際的競争力を高める上で「サービス化」がもたらす戦略上の課題と意義、とりわけ低収益性を脱却する収益化シナリオの分析考察を行うことを目的とする。 研究2年度目の平成30年度(2018年度)は、我が国製造業のなかの家電産業に注目し、そのサービス化の実態を類型化したうえで、サービス化に向けた我が国製造業の課題と戦略について分析を行った。具体的には、国内外の家電メーカー(パナソニック、日立製作所、三菱電機、愛知ドビー、シャープ、ダイソン、デロンギ、アイロボット)の製造販売する掃除機、扇風機、炊飯器における製品販売価格と営業利益率のデータを収集し、これらの関係性から見た製品付加価値化(サービス化)の実態について分析を行った。 その結果、①製品販売価格と②営業利益率との相関から、サービス事業度の測定を行った結果、①製品販売価格と②営業利益率との相関性を確認した。 研究3年度目の平成31年度(令和元年度)(2019年度)は、上記のデータを精査し、電機メーカーの収益化シナリオについて検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、これまで日本の国内市場において家電製品を販売している総合家電メーカー(パナソニック・日立製作所(日立アプライアンス)・三菱電機・シャープ等)と近年台頭しつつある新興の家電メーカー(ダイソン・アイロボット・デロンギ・愛知ドビー)を対象に (1)掃除機、(2)扇風機、(3)炊飯器における営業利益率と販売価格の定量分析、各社のホームページ・カタログ・ネット情報からの定性分析、及びこれらの比較分析を行ってきた。その結果、仮説(1)日本の総合家電メーカーと、新興家電メーカーとの間には、「製品販売価格と営業利益率」との間に相関がみられること。対象製品である(1)掃除機、(2)扇風機、(3)炊飯器において、3つの対象製品別に①製品販売価格と②営業利益率との相関から、①製品販売価格と②営業利益率との間に一定程度の相関がみられるこ とが確認できた。 また、「製品販売価格と営業利益率」の高い製品がサービスデザイン戦略が優れているとの仮定のもと、対象製品である(1)掃除機、(2)扇風機、(3)炊飯器について、3つの対象製品・企業別に①製品の基本性能(コモディティ化領域)と②高付加価値化機能(製品設計・デザイン性能含)の特徴を、各社の製品カタログ・ホームページ・一般記事より精査を行い、斬新なサービスデザイン戦略がとられていたことを確認した。 本研究の当初の計画では、研究3年度までに収益化に向けた複数のシナリオの比較考察を行うところまでの進捗を想定していたが、年度末のコロナウィルスの蔓延による国際会議の中止などに見舞われ、研究3年度目の終了時点で「やや遅れ」と判断される
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Strategy for Future Research Activity |
恩蔵直人(2007)は脱コモディティ化に関する研究でインストールベースとソリューションベースの2つのサービス戦略の利益モデルを提唱している。また、東利一(2017)は、「脱コモディティ化戦略における顧客像の探究」の「脱コモディティ化戦略理論」において「コンテクストデザイン」(サービスデザイン)の重要性を指摘している。一方、家電製品の脱コモディティ化戦略のひとつとしてサービスデザインを扱った研究は見当たらない。本研究では、脱コモディティ化戦略としてサービスデザイン戦略が有効であること。及びサービスデザイン戦略に基づく収益化のシナリオがこれまでと異なったアプローチであることに着目している。たとえば、英国ダイソンや日本のバリュミューダなどの新興家電メーカーでは、東利一(2017)が指摘する斬新なデザインの製品を開発することで、コモ ディティ化の進む日本市場の家電製品事業において、高価格帯の製品を投入しながらも市場に受容され、高利益を創出している結果が顕著に現れていることからも実証される。 今後の研究では、「低価格・低利益製品」という位置づけを余儀なくされる日本の家電メーカーが、「高付加価値製品」領域で「コンテクストデザイン」(サービスデザイン)で成功する新興家電メーカーと比較対比する中、いかなる収益化シナリオが可能なのか、さらなるデータ収集、ケーススタディを通して、考察を行い、サービスデザイン戦略の類型化の精査とこれに基づく収益化シナリオを提示する予定である
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Causes of Carryover |
研究初年度の平成29年度(2017年度)は、研究に必要なデータ収集とその精査が当初の予定よりもやや遅れており、そのために平成30年2月に予定していた国際学会での発表には間に合わなかった。これらの遅れを挽回したうえで、研究2年目の平成30年度(2018年度)に当初の学会発表等を実施した。また、研究3年目の年度末に実施予定であった研究会、学会発表も中止ないし延期となった。このため、3年度に執行予定の研究費の一部を4年目に繰り延べ執行することと致したい。
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