2018 Fiscal Year Research-status Report
裁量的会計発生高と企業による実物投資の関係に関する総合的研究
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17K04089
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Research Institution | Hannan University |
Principal Investigator |
中條 良美 阪南大学, 経営情報学部, 教授 (00387383)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 実物投資 / 権限移譲 / ホールドアップ問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究では、企業による実物投資に関する意思決定のあり方を、企業部門間における権限移譲の観点から考察した。企業内部の特定事業部門によって展開される活動が、売上高や利潤への貢献度合を増すにつれて、子会社等として分離・独立する現象がしばしば観察される。一見すると、本部としての企業が事業部門に対して完全な支配権を有するほうが、当該事業部門の利益を独占することができるため、事業部門の独立は本部にとって望ましくない戦略として捉えられるかもしれない。しかし、事業部門自体のインセンティブを考えると、事業部門の完全支配は必ずしも最適な戦略とはなりえないことを明らかにした。 事業部門の意思決定が本部によって決められるなら、事業部門の最適な投資水準は企業全体の利潤を最大化するように設定される。しかし、非可逆的な実物投資に全責任を負うのが事業部門である以上、ホールドアップ問題によって、かかる投資の水準は抑制されてしまうことが知られている。そのようななか、事業部門に一定程度の権限が委譲されていれば、ホールドアップ問題が緩和されるのに応じて、事業部門による実物投資の水準も向上することが期待される。それによって事業部門に帰属する利潤が増大すれば、本部がたとえ権限移譲によって事業部門の利潤を一部逸失するとしても、支配権に比例して受け取られる利潤が全社一体として投資を実施した場合の利潤よりも大きくなるケースが存在しうると考えられるのである。 今回の研究では、事業部門の重要性をコストによって代理させたうえで、権限移譲に関する理論モデルを構築することで、本部と事業部門の利潤の合計を最大化する権限移譲の水準を導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、財務諸表上の会計数値によって裁量的に表現される企業活動の成果が、企業の実物投資にどの程度反映されるのかを検証することを目的にしている。第2年度はとりわけ実物投資の側面に焦点をあわせ、投資の決定要因が企業内部の組織構造とそこでの権限移譲のあり方によって影響されることを明らかにすることができた。最終年度は、上記のメカニズムを通じて決定される実物投資と、利益をはじめとする会計情報の性質との間の関係について検証する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
企業による実物投資の水準が組織内部での権限移譲の程度に影響されることが明らかになったことを受けて、最終年度は特定事業部門に対して委譲された権限の大きさと、本部によって公開される会計情報の正確性との関係を実証的に跡付ける。そこではまず、利益予想と権限移譲の程度を明示的に取り入れた寡占モデルを展開することによって、権限移譲の大きさが予想の正確性におよぼす影響を検証する。つぎに、公開された財務諸表データをもとに、権限移譲、実物投資、利益の正確性の三者の間の関係を実証的に説明することを試みる。
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