2019 Fiscal Year Research-status Report
日本の市民セクターにおけるビジネスライク化の実態とメカニズムに関する研究
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17K04093
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
仁平 典宏 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (40422357)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 市民社会 / NPO / 社会運動 / ビジネスライク化 / 新自由主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、日本の市民社会組織の「ビジネスライク化」と呼ばれる変化に焦点を当てて、そのメカニズムや諸帰結を明らかにすることである。本年度は主に「首都圏の市民活動団体に関する調査」を実施・分析した。本調査は、2006年の調査と同一のターゲット及び同一の質問を含み、13年の間に市民社会組織においてビジネスライク化がどの程度進行しているのか検証できるデザインにしている。実質的な配布数は2,167、有効回答数は573で、回収率は26.4%だった。 主な知見は次のとおりである。法人格に関して、任意団体が減り、認定NPO法人の増加が目立った。経済活動・事業を行っている団体の割合については、有料の研修やワークショップの開催、専門技能や人的サービスの提供、相談・カウンセリング活動が上昇している。それに伴い、収入に占める財源も会費や寄付の割合が減り、行政・外郭団体からの業務委託などが増加している。 このように市民社会組織が13年の間に、公的なステイタスを獲得し、事業活動の役割を高めていった傾向が垣間見える。これを「ビジネスライク化」の一端と理解することはできるだろう。海外における先行研究では、これらの変化が政治性や運動性の低下をもたらすことが指摘されていた。ところが本調査では必ずしも一貫した傾向が見られず、政治的行為のレパートリーのうち、政治家・議員への働きかけ、集会の主催・集会への参加、デモへの参加等は増加していた。つまりビジネスライク化の進行は、市民社会組織全体としては争議性の低下と連動していなかった可能性がある。以上の概要について日本社会学会で報告した。 その他、オリンピックのビジネス化にボランティアが動員されるプロセスの分析、及び東日本大震災の市民活動の経年変化に関する分析も行い、共著書が近日中に刊行予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・当初の計画通り首都圏市民活動団体調査の配布、回収、データ入力を終了することができた。本調査はプロジェクト全体の中心をなすものであり、これを無事に実施できたことは大きな意味がある。上述のように分析を開始し、13年間の首都圏の市民社会組織におけるビジネスライク化と争議性の変化について大枠を捉え、学会で報告することができた。 ・研究プロジェクトのもう一つの重要な柱である市民社会の言説分析についても、「ボランティア」「NPO」それぞれについて、1985年から現在までの新聞記事のコーパスを完成させた。 ・その他、事例研究の一貫として、オリンピックのビジネス化にボランティアが動員されるプロセスの分析、及び東日本大震災で被災した陸前高田市における市民社会組織の7年間の変化に関する分析も行い、それに基づく共著書がそれぞれ近日中に刊行予定である。 ・以上の点から、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
・首都圏市民活動団体調査については、これまでの記述的な分析を踏まえて、今後は多変量解析を用い、ビジネスライク化と政治性の関係についてさらに検討を深め、日本NPO学会などで報告・論文化の予定である。 ・市民社会の言説分析については、「ボランティア」「NPO」に関する新聞記事のコーパスを用い、計量テキスト分析を行っていく。ビジネスライク化の仮説では、それらの言葉の強い連関を持つ言葉群が、政治・運動的なものから、経営・事業的なものへと、経年的に変化することが想定されているが、その妥当性をDictionary-based approachによって検証すると同時に、全体布置の変化についてもCorrelational approachを併用して捉えていく。以上の分析結果は、登壇が予定されている日本NPO学会大会のシンポジウムで報告を行う。 ・他方、助成団体などへの調査については、新型コロナウイルスの感染によって、どこまで予定通り実施できるかわからない。オンラインのインタビュー調査に切り替えるか、文書資料の分析を中心に据えるなど、状況を見極めながら適切な方法を探っていく。
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Research Products
(2 results)