2017 Fiscal Year Research-status Report
災害からの復興過程と被災地支援についての比較社会学的検討
Project/Area Number |
17K04117
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 亮 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (40313788)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会学 / 災害 / 復興 / 自立 / 支援 / 実践知 / ボランティア経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
災害からの復興過程と被災地支援について比較社会学的に検討するという本研究の目的に照らし、平成29年度はまず文献調査やこれまでの被災地での調査から生活課題や支援課題の現れについて整理した。さらに東日本大震災の被災地をメインのフィールドに据え(盛岡での復興グッズ支援の事例、石巻での6次産業化の取り組み)、そこで生じている復興へ向けた取り組みに参与観察を行いながら、改めて復旧段階と復興段階との違いを明確化するとともに、それぞれの段階における支援のあり方について検討した。 文献調査やこれまでの調査研究の成果から、避難所段階、仮設住宅段階の生活課題並びに支援課題を整理してみると、阪神淡路大震災でも東日本大震災でも共通点が多く見られることがわかる。一方で、大都市と地方との違い、従前の生活環境の違い、ならびに福島における原発災害という特殊性が、両災害における課題の相違を生み出す要因となっていることが確認された。 東北をフィールドとした調査研究では以下のことが確認された。避難所や仮設住宅といった「仮」の生活が解消される〈復旧段階〉までは、行政の手による種々の事業(土地区画整理事業、防災集団移転事業、復興公営住宅の建設等)があり、その間は生活を支えるためのボランティア等による支援も存在している。一方、それなりの希望を持って将来を展望できる復興の計画については、行政主導による企業誘致等のいくつかの事業があるだけで、その大部分は被災者自身の手に委ねられている。そして、〈復興段階〉にはすでに外部支援は撤退しており、長期スパンで被災者に寄り添う支援者はほとんどいない。こうした現状の中で、〈復旧段階〉から〈復興段階〉にどのように繋いでいくのか、またそこでの支援のあり方について論じることが課題化されていると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震を対象に、復興の過程や支援のあり方を整理し、各段階における課題を明らかにしながら、実践を意識した復興論・支援論の構築を目指している。初年度の研究により、〈復旧段階〉については避難所段階、仮設住宅段階の時期区分を設定し、それぞれの段階ごとに生じる避難生活や支援の課題を阪神淡路大震災と東日本大震災の比較整理がある程度できたので、概ね予定通りと考えている。 また、東日本大震災の調査から、これまで曖昧に使用されてきた復旧と復興の概念を区別して考えることで、これまでの災害研究が圧倒的に〈復旧段階〉の議論に傾斜してきたこと、東北の実際の現場では復旧の事業は進んでいるが〈復興段階〉になかなか進めないでいる現実があることを捉えることができた。換言すると、復旧と復興とは連続的に進んでいくものではなく、そこには改めて復興のための計画や実践を考えるプロセスが必要となる。そして、復興のための実践に寄り添う支援のあり方を模索する必要がある。こうした〈復興段階〉についての着想を得られたことは、初年度の特筆すべき成果であり、この点でも研究は順調に進捗していると判断できよう。 ただし一方で、復興グッズ・被災地グッズの活動状況を見ていると、〈復興段階〉の活動に進めずに活動を閉じようとする事例も散見される。これらの状況も注視していく必要があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進については、平成29年度の進捗が概ね順調と言える内容であったものの、東日本大震災の復興過程は今なお継続中であることから、まずは東北の現場を中心に、被災当事者や地元支援者たちがどのように復興を構想していくのかを見定める作業を継続する。この作業を行いながら、さらに〈復興段階〉に生じる諸課題、後方支援のあり方についてなどを参与型の調査で考察していく。 当面は、盛岡の復興グッズの活動については「ハートニット・プロジェクト」を対象に、現在までの経緯を整理し、〈復旧段階〉から〈復興段階〉への活動の移行を捉える作業を進めたい。また、石巻では障がい者団体が核となりながらまちづくりを進めていこうとする動きが出てきているので、調査対象としてヒアリングを継続したい。 このほかに、福島でも〈復興段階〉における当事者の自立へ向けた活動がいくつか見られる。具体的には郡山における障がい者自立の施設設立の動き、いわきにおけるコットンの生産から製品製作、販売の事業化などである。これらについても、可能な限り情報収集を進めていきたいと考えている。 さらに、阪神淡路大震災との比較という本研究の基本スタンスを貫くべく、神戸の支援者との対話を行っていきたい。これによって神戸と東北との共通点や相違点の整理が進むことを期待している。
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