2019 Fiscal Year Research-status Report
災害からの復興過程と被災地支援についての比較社会学的検討
Project/Area Number |
17K04117
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 亮 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (40313788)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 社会学 / 災害 / 復興 / 自立 / 支援 / 実践知 / ボランティア経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度の研究では、主に二つのことを行った。一つは前年度からの引き続きで調査を重ねてきた復興グッズの製作と販売の事例(ハートニット・プロジェクト)について、論文にまとめる作業である(近日刊行図書に所収)。もう一つは、阪神淡路大震災から25周年を迎えるにあたって、復興支援の課題を整理する検討会が神戸で行われたが、これに継続的に出席しながら、25年間の災害復興支援のあり方を検証する作業である。 前者の作業では、ハートニット・プロジェクトの8年間の活動の変遷を記述しながら、この活動が多くの支援者達の下支えによって成り立っていることを示した。これは、支えあうことで全体が自立できる仕組みであり、強者と弱者、支援者と被支援者といった非対称な二項で括る考え方とは一線を画するものである。また、ボランティア活動としてのハートニット・プロジェクトは8年間でその役割を終え、9年目からは新生ハートニット・プロジェクトとして市場経済に参入する舵取りを行ったが、本論文ではこの展開を復興段階の歩みとして捉えた。無論、素人から始まったモノづくりのプロジェクトが市場経済で成功を収めるのは容易ではなく、実際に課題も山積してる。それでも、乗り越えるべき課題を把握し、その解決に向けての一歩を踏み出そうという姿勢は、そこに希望を見出したからこその振る舞いである。復興とはまさにこのように将来に希望や可能性を抱くことにほかならないことを論文では明らかにした。 後者の作業では、被災地NGO恊働センターが主催する「寺子屋」に継続的に参加し、支援活動の実践者との対話を重ねた。12月には自らも講師として「『自立支援の実践知』とその検証」というテーマで話題提供しながら、神戸の支援者から生まれてきた思想の意味を再検証した。上記の内容は毎日新聞の記者からも取材を受け、3月26日の同紙の記事でその一部が紹介された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、各地で発生する災害における復興過程を調査しながら、そこでの課題や支援のあり方を明らかにすることを目的としている。東日本大震災のような大災害の場合、建物や道路、港湾施設等々のハードの整備は、時間がかかりながらも淡々と進んでいる。人々の暮らしも仮設住宅などの避難先から、復興住宅などの恒久住宅に移行が進んでいる。一見すると復興は進んでいるかのように思われるし、いつまでも「被災地」として扱われることに抵抗感を示す言説も見受けられるが、その一方で現場は全体的に閉塞感に覆われている。何をもって復興と考えたらよいのかという問題がそこにはある。 この問いに対し、本年度の研究では、将来に希望や可能性を見出して一歩足を踏み出すことを復興として捉える考え方を提示できた。ただし、新型コロナウイルス問題の影響で、こうした考え方を東北の現場で検証するための対話の機会を持つことができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進については、盛岡のハートニット・プロジェクトの事例のその後を継続的に調査し、関係者との対話の中で、研究成果の検証を進めていく予定である。福島のコットンのプロジェクトについても同様に継続的に観察を続けていく。 神戸の支援者との対話も引き続き継続予定である。コロナ禍により、従来のような直接的な被災者への寄り添いが困難になる中で、彼らはすでに新たな支援のあり方を模索し始めている。社会の危機的な状況の中で、その都度形を変えながらも寄り添いの精神で活動を続ける様子を把握したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス問題の影響で、2月から3月にかけて予定していた調査のための出張ができなくなったのが次年度使用額が生じた理由である。 今年度も同問題の影響があるものの、社会的な状況を見極めながら、現地調査を実施したいと考えている。具体的には、岩手県盛岡市及び同県沿岸部への調査出張、および兵庫県神戸市への調査出張が主となる予定である。
|