2018 Fiscal Year Research-status Report
集合的記憶論とトラウマ記憶論の接合可能性の探究――記憶研究の学際的展開に向けて
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17K04144
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
直野 章子 広島市立大学, 付置研究所, 教授 (10404013)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 集合的記憶 / トラウマ記憶 / 精神分析 / 主体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は集合的記憶およびトラウマ記憶に関する主要な先行研究のうち、2000年代に発表された日本語および英語の論考を対象に分析した。①集合的記憶論に関しては、日本語圏で、歴史学や社会学を中心に、特に戦争の記憶に関する研究が急増した。分析の対象としては、英語文献については数が膨大に上るために、2000年代に発表された主要な論集(Routledge studies in memory and narrative等の出版シリーズ)と、2008年から刊行された記憶研究に特化したMemory Studies掲載の論文を中心とした。社会学、政治学、歴史学という学術領域をまたがって広くみられる傾向としては、社会統合や闘争における記憶の機能(記憶の政治学)に力点を置いていることである。トラウマ的出来事についても、記憶の政治学の事例として取り上げるものが増えている。また、Olickの「2つの集合的記憶論」を出発点として、概念の再検討と方法論の検討が本格的に始められている。②トラウマ記憶に関しては、1990年代のホロコーストやPTSDに関する主要な研究成果を質量ともに発展する形で、英語圏だけでなく、日本語圏でも研究が急増した。カルースの論集が翻訳されたことの影響により文学や近接領域における研究が増えただけでなく、日本国内で起きた大規模災害を受けて90年代後期に始動していた研究が発展する形で、心理学や精神医学の領域を中心に経験的研究が多数刊行された。分析対象は主要な論集(Memory and Methodology等)掲載の論文を中心とした。2000年代も、精神分析に依拠する論考とPTSD概念に依拠する論考との間には、認識論的に大きな違いがあり、両者の間に対話は少ない。新たな潮流として脳神経学の知見を取り入れたトラウマ論が治療や援助の文脈で増えており、出来事の実在性を前提とする傾向が強まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分析対象とする先行研究について、集合的記憶論についてもトラウマ記憶論についても、主要なものはレビューすることができた。また、トラウマ記憶論については2010年代の論考も精神分析学に依る主要な研究をレビューした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度については、2010年代に発表された主要な集合的記憶論とトラウマ記憶論の論考を分析する予定である。ただし、それ以前に比べても、研究論文や書籍の数が激増しているために、Memory Studiesの書評に取り上げられた著作や今年度に対象とした出版シリーズ、ハンドブックを中心に分析していく予定である。また、歴史学と精神分析、哲学の研究者を招聘して、シンポジウムを開催する予定である。
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Causes of Carryover |
研究発表の旅費が近隣地域であったため、予定より少額の執行ですんだため。来年度および最終年度のシンポジウム開催の必要経費に使用する予定である。
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