2020 Fiscal Year Research-status Report
集合的記憶論とトラウマ記憶論の接合可能性の探究――記憶研究の学際的展開に向けて
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17K04144
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
直野 章子 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (10404013)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | トラウマ記憶 / 集合的記憶 / 歴史と記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究課題でこれまでに行ってきた集合的記憶およびトラウマ記憶に関する先行研究のうち、トラウマ的出来事にかかわる記憶の社会的枠組みと証言、トラウマ記憶と主体の反応に関連する論考を中心に改めて検討し、関連する歴史叙述や精神分析の論考も検討に加えて、集合的記憶論とトラウマ記憶論を接合する可能性を探った。とくに、ホロコーストおよび性暴力の記憶に関して経験的な分析を行っている論考と、精神分析の臨床的知見からトラウマ記憶における主体の関与を検討した論考を手掛かりにすることになった。検討の結果、トラウマ体験の記憶も、出来事にかかわる集合的イメージや記憶の社会的枠組みに影響を受けながら形成されているところがあり、トラウマ記憶のあり方も、記憶の社会的枠組みによって変化する可能性があることが示唆された。 研究成果の発表としては、昨年度行った公開シンポジウムの問題意識を継承しつつ、2020年12月5日に公開シンポジウム「抑圧されたものの痕跡を求めて/辿って――記憶の存在論と歴史の地平II」を開催した(京都大学人文科学研究所共催)。語られた記憶と過去の出来事との関係にかかわる認識論的、存在論的な課題について検討しながら、「抑圧された者/物たち」の記憶から歴史を切り拓くことの困難と可能性を、哲学、社会学、歴史学、精神分析学の立場から考察することを目的とした。第1部では、直野(本研究課題代表者・社会学)が「「ありえない」出来事の行方――原爆の記憶と性暴力の記憶」、柿木伸之氏(広島市立大学・哲学)が「地を這うものたちの歴史──断絶の記憶から」という発表を行った。第2部では、討論者の冨山一郎氏(同志社大学・歴史学)と立木康介氏(京都大学・精神分析学)のコメントと質問を受けて、会場も含めたディスカッションを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Memory Studies Associationの国際会議での発表を予定していたが、新型コロナウィルスの感染拡大により、2020年度の会議は21年度に延期された。国内シンポジウムについては、ウェビナーを利用して開催することができたが、国外の研究者を招いて行う予定であった国際シンポジウムは開催を断念せざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、これまでの研究成果をもとに、7月にオンラインで開催予定のMemory Studies Associationの国際会議で発表を行うことになっている。国際シンポジウム開催については、学術ネットワーク形成という目的を考慮すると、オンライン開催ではなく、実際に国外研究者を招へいして学術交流する機会を設けることが重要であるが、21年度中の開催は困難であるかもしれず、オンライン開催もしくは再度の延期となる可能性は否定できない。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大により、ワルシャワで開催予定であったMemory Studies Associationの国際会議での発表を予定していたが、2020年度の会議は21年度のオンライン開催に変更された。また、国外の研究者を招いて行う予定であった国際シンポジウムも開催を断念せざるを得なかった。以上の理由から、謝金の執行額が少なくなり、旅費の執行もなくなった。
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