2018 Fiscal Year Research-status Report
幼児・児童の感情言及と関係調整プロセス:他者理解への道筋を探る
Project/Area Number |
17K04343
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岩田 美保 千葉大学, 教育学部, 教授 (00334160)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 感情語 / 感情言及 / 対人機能 / 親密な仲間 / 感情コンピテンス / 関係調整 / 葛藤調整 / 遊戯性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主目的は、日常的な社会的場面での幼児・児童の自他感情言及とそれに伴う関係調整のプロセスの検討を通じ、同時期の他者理解の発達プロセスを探ることである。今年度は、特に、以下の点について検討を進めた。 ①幼児を対象とした検討 幼稚園での観察・プロトコル化を進めるとともに、親密な仲間間にみられる感情言及の対人機能の発達プロセスについて検討した。2コホートの幼稚園児の3年間の縦断的データに基づき、ポジティブな感情語(「おもしろい」・「楽しい」)の機能及び、それらが関係構築にどのように寄与しているかという点に着目し、分析を行った。その結果、それらの感情言及の機能の発達プロセスには発達的共通性がみられ、幼稚園期を通じて、彼らの関係構築に有意義な役割を果たしていることが窺えた。他方で、同機能には、グループに応じた固有性もみられた(発達心理学研究、2019、第30巻1号、pp.44-56)。本結果は、社会的文脈における幼児期の感情言及を通じてみられる感情コンピテンスの発達や、「心の理論」の個人差に関わる示唆につながる重要な成果といえる。このほか、ある子どもの〈意図的ではないとみられる行動〉が原因で生じた(原因がわかりにくい)葛藤状況において、4歳クラス児が前期から後期にかけ、話題の転換や、軽口などを挟みながら解決していく様相を捉え(日本教育心理学会第60回総会、2018)、それをふまえる中で、園の仲間遊びにおいて、幼児がいかに遊戯的にネガティブ感情語に言及するかについて、さらに検討を進めた(日本発達心理学会第30回大会、2019)。 ②児童を対象とした検討 高学年(6年)学級の話し合い活動の観察データについて、担任教員への確認を行いながら、プロトコル化を含む基礎データの作成を完了した。現在葛藤調整等に関わる予備分析を行っており、次年度にかけて焦点的な検討を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は昨年度から引き続き、日常場面での感情言及と関係調整に関わるデータを得るための、園・学校での観察とそのプロトコル化、およびそれらの分析を軸に検討を進めた。 現段階までの研究成果のうち、本研究課題と大きく関わる、社会的文脈における親密な仲間間の感情言及(「おもしろい」・「楽しい」)がもつ対人機能についての研究成果が公刊された(発達心理学研究、2019、第30巻1号、pp.44-56)。同研究は、今後の本研究の展開に繋がる重要な基盤となるといえる。また、2018年5月~2019年3月にかけての学会発表(日本保育学会第71回大会、日本教育心理学会第60回総会、日本発達心理学会第30回大会)では、有意義な研究交流が可能となり、遊びの中で引き起こされるポジティブ情動や、それに関わる言及が関係調整に果たす役割等について議論を深め、新たな分析の視点を得ることができた。次年度にかけて、これらをもとに分析や論文作成を進めていく予定である。 小学校での観察データについては、担任教員からの助言も逐次得ながら、プロトコル化とフィールドノートの照合を進め、ほぼ完了することができた。それをもとに現在、どのような葛藤調整が行われているかを含め、予備分析を行っている。さらに、次年度の低学年の観察に向け、現在学校との調整を行っているところである。 また、これまでに得られた未分析の家庭観察のデータについても現在分析が進んでおり、今後研究報告を行っていく予定である。また、予備分析として、大学生を対象に小学生期(小学校後半4~6年生頃)の夕食時の家族の会話への参加者としての,家族メンバーの様態及び,話題等について尋ね、検討を行った。総じて、当初の研究目的に沿った研究の進行は概ね順調になされているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、幼稚園での観察について、足りないデータを補完すること等もふまえ、継続して行っていくとともに、プロトコル化が済んでいないデータについて、同作業を進めていく。さらに、これまでに蓄積された園での観察データも含めて、学会での討議等で得られた内容をふまえ、逐次論文としてまとめていく予定である。 小学校のデータについては、プロトコル化が完了している高学年のデータについて、予備分析・本分析を行い、本研究課題に関わる検討を進めていく。また、観察については、今後は低学年を対象に進めていくことを予定している。さらに、現在分析中の家庭観察データ(三世代)も含め、得られた研究成果については、日本発達心理学会や、日本教育心理学会、等において逐次報告し、意見交換を積極的に行っていく予定である。こうしたことを通じて、園・学校・家庭場面での感情言及と関係調整に関する研究をより深め、幼児・学童期の社会的文脈における他者理解のプロセスについて明らかにしていきたいと考えている。
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