2019 Fiscal Year Research-status Report
Attentional control for unexpected stimuli and individual differences
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17K04492
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松本 絵理子 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (00403212)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 注意 / 抑制 / マルチタスク / 個人差 / ワーキングメモリ / クロスモダル |
Outline of Annual Research Achievements |
マルチタスクとは、文字通り複数の課題を同時に遂行する事態を指し、これまで心理学研究では、二重課題や課題の切り替え(task-switching)などのパラダイムを用いた検討が多い。近年の日常生活場面では複数の情報機器の操作を行いながら作業を進めることが多いため、マルチタスク研究の重要性は高い。本研究課題では、マルチタスク環境下で、課題目的に関連なく、しかも予期せずに与えられる刺激に対する気付きへの失敗が生じる背景要因について探るために、注意配分の近年のモデルに基づき、それらの個人差とパフォーマンスの関係について検討を行ってきた。平成29年度は視覚課題の認知的負荷を操作し、課題非関連の聴覚刺激への気付きについて予告のない状況での実験を行った結果、ワーキングメモリ容量の個人差が気付きと相関があり、回帰分析の結果、ワーキングメモリ容量の高さが気付きの失敗を予測することが示された。平成30年度はこの課題非関連聴覚刺激への気付きの失敗が予期の有無に依るのかを検討するために、あらかじめ教示され学習を行った場合の効果とワーキングメモリの個人差について検討を重ねた。また、同一モダリティの非関連刺激の抑制に関連する脳波実験では、注意制御に関わる成分に着目して実験データ収集と解析を進め、国際学会にて発表を行った。これらの結果についてはそれぞれ専門誌に投稿中ないし投稿準備中である。令和元年度は、あらかじめ課題非関連の聴覚刺激が呈示されることを教示し、十分な学習フェイズを設けた上で、非注意性盲目(inattentional deafness)のパラダイムを用いた検討を行った。今回は、音刺激の種類、呈示頻度を操作して、ワーキングメモリ上に表象される音刺激の種類が増加することによる聞き落としへの影響を調べた。この結果は令和2年度に実施される日本心理学会(オンライン大会)にて発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度、30年度の成果を進展させ、マルチタスク環境下での注意抑制過程の解析について必要な段階を踏まえて進めてきている。本研究の理論的背景にある負荷理論では、視覚課題への認知的処理資源の集中が、課題非関連刺激への気付きを回避させるというもので、主として視覚課題を用いた同一モダリティで検討されてきた。しかし、近年の議論では、「処理資源」がどのような存在であるのか、モダリティ共通に配分され得るのか、ワーキングメモリ容量とは異なるものであるのか、などの疑問が呈されてきている。本研究課題では、研究期間前半で実施した複数の心理実験の成果から、モダリティ共通に負荷の影響は認められ得る事を見出し、さらに、ワーキングメモリ容量の高さは聞き落としの低さを一部で予測し得ることを認めた。しかしながら、ワーキングメモリとの相関は高くなく、「処理資源」はワーキングメモリ容量とは同一ではない可能性が示唆されている。むしろ容量に寄与する注意制御機能の高さが聞き落としの背景にあるのではないかと考えられる。これらの予測を元に、実験検討の追加が必要であると判断に至り、予定より実験期間を延ばしデータ収集に努めるに至った。実験では、聴覚刺激の種類や出現頻度を操作して、ワーキングメモリ内に表象される聴覚刺激の種類を増加させる条件を設けた。これらの成果についてさらなる解析を進め、学会での発表、論文化に向けての作業を進めている。さらに検出の難易度を向上させる操作を加えた追加実験を実施中である。また、令和元年度終盤期(2月3月)に実験データ収集に着手していたが、新型コロナ感染拡大に伴う措置により直接対面が必要な実験が中止されており計画への影響は否めない。ただ、データ収集以外の作業を進め、事態が収束し安全が確認された後には速やかに再開し、データの追加解析と発表を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度に引き続き、これまでに検討を行った心理学実験の成果、脳波実験で得られたデータを基に、注意抑制プロセスとワーキングメモリ容量の個人差の特性に着目した詳細なデータ解析を進め、成果として公表することを第一に進める。公表は具体的には、研究会の主催、国内外の学会での発表、論文執筆と投稿、成果に関わる内容のホームページ上での公開がこれにあたる。また、「処理資源」とワーキングメモリ容量の関係、感覚モダリティ共通性の議論についても、新たなパラメータを加えた昨年度の実験成果を加えて検討を進めたい。 心理学実験の成果については、特に、ワーキングメモリ容量による妨害刺激抑制に関する影響が一部の条件にて認められた点に注目し、これらのモデル検証をふくめて成果公表に繋げたい。また課題非関連刺激を操作することで、非関連刺激のワーキングメモリ負荷の影響、呈示頻度の操作による注意の構えの影響について、中断されたデータ収集を速やかに再開の上、検討を重ねることで、マルチタスク環境下での注意制御について統合的に説明し得る可能性がある。そのため、これらの成果についてさらなる解析を進め、学会での演題発表、研究会の主催、ならびに学術論文としての投稿を目指し作業を進めて行きたい。 また、脳波実験の成果について、妨害刺激抑制と注意制御に関する複数の脳波成分との関係についてさらなる検討を進めたい。また、解析を進める中で必要に応じて追加実験を行うことも検討している。これらの分析の結果を国内外の学会で公表すると共に学術論文として国際誌への投稿を目指し進めたい。
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Causes of Carryover |
未使用の生じた理由は、物品費においては、購入予定品目がわずかに下回る価格で遂行可能であった事が主たるものである。この費用については、今年度の予算と併せて用いたい。 新型コロナ感染の影響により、今年度の研究会活動における旅費の執行については計画を立てにくい側面が否めないが、全体の使用計画としては、昨年度に引き続き、研究成果報告及び情報収集の目的で学会参加費用、昨年度末に中止となった実験の遂行に必要な謝金及びそれらのデータ解析に用いるためのアプリケーションおよびメディア類の購入費用、成果報告を国際学会誌上で行うための英文校閲費用、投稿費用、別刷印刷費等出版に伴う経費、等に用いることを計画している。
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Research Products
(8 results)