2018 Fiscal Year Research-status Report
「対話による探究の授業」を活用した学級の人間関係育成の実践支援と現象学的研究
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17K04524
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Research Institution | Miyagi University of Education |
Principal Investigator |
田端 健人 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (50344742)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 探究の対話 / 学級コミュニティ / 教師のコミュニティ / 配慮を擁する子ども / 現象学 / 質的研究 / 子どもの哲学 / 討議による成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)実践支援:白石市立O小学校での探究の対話p4cの実践支援を行なった。O小学校は、2017年度から探究の対話を取り入れた道徳の授業研究に取り組んでいる。その2年目であり、探究の対話を全クラスで週1回継続することにより、学級コミュニティと個々の子どもと教員に、明らかな変化成長が見られた。同校は、この取り組みによって、宮城県および岩手県や福島県や千葉県の教員や教育委員会から注目され、多くの見学者を受け入れ、2018年11月にその研究成果を公開し、参観者から高い評価を得た。 2)研究成果:発達障害(愛着障害、自閉症、知的発達遅延)の子どもが探究の対話に参加し、活躍できるようになった。話合い活動での子どもの声が大きく明瞭になった。教師に対する子どもの信頼感が増し、教師と子どもとの日常的なコミュニケーションが向上した。指導案作成時に教師が子どもの反応を3つ以上のパターンで予想できるようになり、授業展開が柔軟になった。こうした子どもと教師とそのコミュニティの変容成長は、探究の対話p4cが教育的に大きな意義と可能性を持っていることを示している。 3)成果発表:上記の研究成果の一部を、4年生の学級における「配慮を要する」子どもと周囲の関係に焦点を当てて研究論文にまとめ、国内外の学会で口頭発表すると共に、紀要等に発表した。教員養成大学の講義や演習、教職大学院での現職教育、免許状更新講習でも、こうした研究成果をフィードバックした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
白石市立O小学校の実践支援は、2017年度から引き続き2年目であったが、校長と教頭のリーダーシップのもと、全教員が、対話を活用した道徳の授業研究を核とした「探究のコミュニティ」に成長し、各学年の子ども個人と学級集団も大きな成長し、その成果を公開授業として、380名を超える参加者に対して発表できた。これは、当初の予想以上の成果であった。 O小学校の「対話を活用した道徳の授業研究」は、「対話的で主体的な深い学び」の一つの先進例である。モラルジレンマを含むオープンエンドな話合いと、1時間の「ねらい」を達成する従来型の授業法とは、当初相容れないものと思われたが、研究と実践を重ねることで、両者が両立することを、同校の授業が実際に示せたことは、新たな発見であった。p4cの対話を定期的に重ねることによって、子どもの問いと教師の問いとが自ずと重なるようになり、教師が発問したい問題を、子どもが主体的に問うようになった。また、探究の対話に慣れるにつれ、教師の思考も柔軟になり、子どもの反応を多様に予測できるようになった。一方、子どもの思考も、ある程度の論理性を持つようになり、教師にとって予測しやすいものへと変化した。 研究面では、同校の個人と学級集団と教師集団の成長を、特別な配慮を要する子どもを含む学級に焦点を当て、2年にわたり観察および聞き取りを行い、英語と日本語の論文にまとめ、国内外に発信した。これも、研究が計画以上に進展したことを示している。2017年度後半の在外研究によりネットワークをつくった米国ハワイ州の「子どもの哲学」の実践者と研究者にも、このO小学校の成果を情報提供し、p4cの可能性をさらに広げることができた。また海外の学会での発表も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
1)実践支援:今年度から、申請者が所属する大学の附属小学校(以下、附属小と略記)の特別活動の研究実践に、話合い活動を取り入れることになり、その研究協力者を引き受けている。この話合い活動に、探究の対話p4cで蓄積した研究を発展的に生かす計画である。附属小で、探究の対話p4cの授業を実践できるなら、本研究の予想以上の進展と言える。附属小の新しい特別活動のコンセプトに応えるため、探究の対話p4cを新たにアレンジする必要がある。特に「合意形成」「意思決定」「話合いの成果を行動に移す」という要素を、加える計画である。この実践は、2020年2月の公開研究大会にて発表されることになっている。また附属幼稚園での実践支援も行う。 2)研究面:上記のアレンジを理論的に裏付けるために、ハーバーマスの討議倫理やコミュニケーション的行為、また昨今の討議デモクラシーの理論と実践の研究にも取り組む。実践と研究の国際交流も進める。具体的には、p4cハワイとの継続的連携、またドイツの「子どもの哲学」との連携にも取り組む。 3)成果発表:国内学会はもとより、海外の学会でも、研究成果を積極的に発信する。具体的には、日本教育学会、日本教育哲学会、日本教育方法学会、APA(アメリカ哲学会)などで成果発表する。すでに、日本教育学会からは、子どもの哲学p4cの米国での動きについて報告する依頼を受けている。年度後半には、教職員向けの著作に取りかかりたい。
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Causes of Carryover |
次年度に国際学会での発表を新たに追加計画したため、本年度の使用額を抑制した。
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