2020 Fiscal Year Research-status Report
The Structure of Correlation among "Education", "Philosophy" and "Politics" in the History of Educational Thought in Japan
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17K04580
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
櫻井 歓 日本大学, 芸術学部, 教授 (60409000)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 勝田守一 / 藤田昌士 / 宮澤康人 / 戦後教育学 / 道徳教育 / 自主性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、前年度に行った学会発表2件の内容に基づいて、それぞれ紀要論文および学会誌への報告論文を完成させ発表した。また年度末には、雑誌論文を1編執筆することとなった。これらはいずれも、前年度に発行したインタビュー記録冊子『教育学研究者の自己形成と戦後日本の教育学 ――堀尾輝久氏、宮澤康人氏、藤田昌士氏への聴き取り調査の記録――』(2019年8月)に関連する研究成果である。本年度の研究実績を分節化すると概ね以下の通りである。 (1) 論文「藤田昌士の歩みと道徳教育研究――勝田守一「自主性」論の受容と継承――」を執筆し、『日本大学芸術学部紀要』に発表した(2020年10月)。同論文では、藤田氏へのインタビューの記録の概要を紹介し、テクストが教育学研究に資する可能性について検討した。具体的には、(1)藤田氏における教育学研究者への歩みを生い立ちに遡っての自己形成過程として略述すること、(2)藤田氏の道徳教育研究に即して、勝田守一(1908-69)のいわゆる「自主性」論を藤田氏がどのように受容し継承したのかを明らかにすることを課題とした。 (2) 教育思想史学会第29回大会(2019年9月)にて開催されたコロキウムの報告論文「教育学のフロイト受容を問いなおす――宮澤康人氏の仕事を中心に――」(『近代教育フォーラム』第29号所収、2020年9月、共著)の一部として、「戦後教育学とフロイトとの〈出会いそびれ〉」を発表した。指定討論者としての発言要旨を、2018年実施の宮澤氏へのインタビューでの発言も引用しながら、戦後教育学とフロイトとの〈出会いそびれ〉という観点から略述した。 (3) 「「資質・能力」と道徳性の問題」を雑誌『教育』2021年6月号のために執筆した。本稿の一部において、上記のインタビュー記録や(1)の論文に基づいて教育科学研究会における道徳教育研究の動向について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前年度は進捗状況について「やや遅れている」としたが、本年度は「遅れている」と自己評価せざるを得ない。 2017・18年度に3名の教育学研究者へのインタビューを実施し、2019年度にインタビュー記録冊子を発行できたことは大きな成果と言える。しかしながら、周知の通り2020年度は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に見舞われ、その影響を受けて本年度は実質的にほとんど研究活動を進展させることができなかったため、「遅れている」と判断する。 本研究の全体的な目的は、近代以降の日本教育思想史における〈教育〉〈哲学〉〈政治〉の連関について、三つのテクスト群から読解することである。三つのテクスト群とは、(1)西田幾多郎のテクスト、(2)京都学派の系譜に属する哲学者・教育学者・教育実践家らのテクスト、ならびに(3)戦後教育に携わった研究者や実践家らへの聴き取り調査より創出されるテクストである。 この研究目的に照らして、インタビュー記録は第3群に属するものであり、この領域では一定の研究成果を挙げたものと考えている。前年度にはインタビュー内容に関する学会発表を2件行い、2020年度にはこれらに基づく論文発表が実現した。また、戦後日本の教育学・教育実践に関わる発展的研究として、「総合学習」や「総合的な学習の時間」を戦後教育学との関連において考察する紀要論文を発表した(2017年度および2019年度)。 第2群に関しては、学校儀式における国旗・国歌の取扱いに関して天野貞祐(1884-1980)の思想との関連から考察する論文を執筆・発表したことも一応の成果である(2018年度)。 しかしながら、第1群の西田のテクストに関しては、筆者が年来取り組んできた領域でありながら本研究課題では未だ研究の進展がないのが実情である。このため、全体としては「遅れている」と自己評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) インタビュー記録に関する研究成果としては、先述の通り本年度に論文2編を発表したが、雑誌論文1編が年度末時点で未発表である。「「資質・能力」と道徳性の問題」と題する同論文では、近年のカリキュラム改革における「資質・能力」と道徳性をめぐる問題について、教育科学研究会「道徳と教育」部会の議論とも関連させて概念整理を行っている。原稿はすでに入稿済みであるため、年度を越してからの校正作業により、誌面に合わせて調整を行い完成させることが課題となる。 (2)相対的に後手に回っている西田幾多郎のテクストの研究を進展させ、学会発表や論文投稿を行うことは焦眉の課題である。この領域の課題はさらにいくつかに細分化できる。 (2-a) 2017年2月にスコットランドのエディンバラ大学で行った研究発表 A Reconsideration of Nishida Philosophy and Japanese Nationalism (西田哲 学と日本のナショナリズムの再考)の内容を発展させ、西田哲学をポストコロニアルの視点から再検討する日本語での研究発表・研究論文へと構成することが一つの課題となる。 (2-b) 西田の論文「教育学について」(1933年)は、〈哲学〉と〈教育〉の主題のもとに教育を「一種の形成作用」と捉えたものだが、山本良吉(当時 武蔵高等学校長)との対談「創造について」(1940年録音)での西田による全体主義批判の発言にも注目しながら、総力戦体制という現実の〈政治〉との緊張関係のなかで書かれたテクストも含めて、西田の教育思想・人間形成思想を解読することが課題となる。 (2-c) 西田の最後の完成論文「場所的論理と宗教的世界観」(1945年執筆)を国家論的観点から再検討し、人間形成における個と共同性の相剋という根本的なテーマに迫ることも課題として残されている。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍のため各種学会がオンライン開催となり、見込まれていた旅費の支出がなくなったほか、コロナの影響により実質的な研究活動をほとんど進展させることができなかったため、多額の未使用額が見込まれる事態となり、研究期間の1年延長を申請することとなった。次年度使用額が生じることとなったのはこうした理由による。なお、本年度に支出したのは、若干の文献資料(思想・哲学分野を中心とする図書)の購入費や、研究成果(インタビュー記録や研究論文)を関係者に送付するための通信運搬費であった。 次年度の使用計画としては、研究期間延長により繰り越すこととなった研究費を、本研究課題の最終年度として研究成果をまとめて公表するための報告書の制作費用に充てることが大きな課題となる。作成する報告書のページ数や印刷部数にもよるが、印刷製本費として数十万円の支出が見込まれる。その他の支出としては、研究資料の電子化のためのスキャナーの購入費、文献資料の購入費、資料調査等のための国内旅費、および資料調査による複写料金などを予定している。なお、文献資料の収集については、西田幾多郎や京都学派関係をはじめ、引き続き思想・哲学・教育分野を中心に収集していく予定である。いずれにしても、公的研究資金を適正に使用することを当然の前提として、研究費を有効に活用し、研究成果を社会に還元することに努めることとする。
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Research Products
(2 results)