2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K04653
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Research Institution | Shitennoji University |
Principal Investigator |
浅田 昇平 四天王寺大学, 教育学部, 准教授 (60555697)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平尾 良治 大谷大学, 社会学部, 教授 (70269801)
竹澤 賢樹 びわこ学院大学, 教育福祉学部, 講師 (90738741)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 教育福祉 / 教育権保障 / 生活・生存権保障 / 訪問教師 / スクールソーシャルワーカー / 障がい児・者福祉 / 重症心身障害児施設 / 地域福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はメンバー全体として以下の実績を挙げることができた。 【実態に関する分析】①沖縄の琉球政府時代における「訪問教師」制度に関する歴史研究。生活保護法、児童福祉法での琉球法と日本法の相違から米国施政権下に起因する問題状況を抽出した。また、都市地域・基地地域などの地域的特性を反映した当時の子ども及びその家庭の生活・教育状況を当時の諸資料をもとに整理した。これを踏まえて「訪問教師」制度に関する調査のため沖縄県を3度訪問し、関係する資料(史料)の収集と分析にあたった。成果として特にこれまでの先行研究で未検証であった「訪問教師」制度創設の経緯と法的根拠の所在、訪問教師をめぐる人事行政の実態(訪問教師の配置地区と地域特性、就任時の教員経験年数、訪問教師の在任年数と退任後のキャリア特性など)を明らかにできた。②重症心身障害児の教育と福祉をめぐる研究。重心身障害児施設の戦後の黎明期において重症心身障がい問題の顕在化と法制度化の問題、重症心身障害児の教育権運動の展開過程、養護学校義務制(1979年)に対するある重心身障害児施設における論議、岡崎英彦の「指導と発達」をめぐる問題を検証した。③田村一二、池田太郎の「教育福祉」の思想形成過程及び実践の分析。両者の後継者へのインタビューの実施と両者の施設で現在に継承されている実践の態様に関する基礎的データを収集した。④スクールソーシャルワークによる教育権保障に関する研究。スクールソーシャルワーカーの実践事例から学校教育における子どもの「阻害要因」を検証するとともに、滋賀県東近江市、京都府京都市におけるNPOを事例として地域で行われている子どもたちの「居場所」活動の実態調査を行った。 【原理に関する分析】本研究の最終的課題である子どもの生活・生存保障の観点での教育と福祉の「関係性」原理の究明は最終年度で上記の「実態」から抽出をし構築していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
上記の「研究実績の概要」の中の【実態に関する分析】での②を除き、全体として遅れている。特に①の沖縄の琉球政府時代における「訪問教師」制度に関する歴史研究では、沖縄県立図書館が新館への移転準備に伴い、米国施政権下の時期の本研究課題に直結する多くの歴史的資料を所蔵している同図書館内の郷土資料室が2018年4月から12月の長期にわたって完全閉室となったため、2018年度の大半はここでの貴重資料にまったくアクセスできなかったことの影響がきわめて大きい。この間に沖縄県立公文書館、琉球大学沖縄資料室にて調査を行ったが、沖縄県立図書館郷土資料室に所蔵されている資料を調査し、収集・分析することができなかったことにより、研究の進捗に大きな遅滞が生じてしまった。 また、③と④については研究分担者両名が勤務大学を異動した、あるいは次年度に異動することに伴い、本来の職務とその周辺の業務が増加してしまい、本研究への取り組みがかなり制約されてしまった。 これらのため【原理に関する分析】は、学校教育(「訪問教師」制度、スクールソーシャルワーカー)、障がい児・者福祉、地域福祉における【実態に関する分析】で得られた研究知見をもとに生成していくものである性質上、【原理に関する分析】においても遅れを生じてしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、【実態に関する分析】については以下の通りである。①の沖縄の琉球政府時代における「訪問教師」制度に関する歴史研究では、「訪問教師」の制度構造と子どもの教育権保障、生活・生存権保障という観点からみた制度的特性に関する研究知見をまとめ、8月の日本教育学会にて研究発表を行う。また、夏休み中に沖縄県での「訪問教師」制度に関する実地調査を実施し、元「訪問教師」へのインタビュー調査及び手記等の発掘を行いたい。そうすることで、訪問教師が果たした役割と課題についてさらに実証的に究明を行えればと考えている。これらの成果を集約し、年内に論文投稿をする。 ②の重症心身障害児の教育と福祉をめぐる研究はすでに4点の論稿にまとめている(未発表)。次年度ではそれらを精緻化し学会発表、論文投稿等の公表を行う。 ③の田村一二、池田太郎の「教育福祉」の思想形成過程及び実践の分析では、両者に関係する人物4氏へのインタビュー調査及び両者が創設した2施設での教育実践の分析をさらに進めていき、論稿にまとめる。 ④のスクールソーシャルワークによる教育権保障に関する研究では、「子どもの居場所活動の実態」という発表題目で8月の日本学校教育学会で研究発表を行う。これを踏まえる形で年度内に「子どもの居場所活動の意義」という論題で論稿にまとめる予定である。 【原理に関する分析】については、上記の【実態に関する分析】で得た研究知見をもとに本研究の最終的課題である子どもの生活・生存保障の観点での教育と福祉の「関係性」原理を究明していく。
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Causes of Carryover |
前述のように、①の沖縄の琉球政府時代における「訪問教師」制度に関する歴史研究では、沖縄県立図書館が2018年4月から12月の長期にわたって完全閉館となったため、沖縄を訪問調査すること自体が大幅に縮減されてしまったことにより旅費支出が当初の使用計画よりも少なくなった。また、他のメンバーにおいては異動に伴う勤務大学での職務の変化と多忙化のため本研究に取り組む時間が制約されたことで、結果として使用計画で予定していた研究費を使用できす、次年度使用額が大幅に生じてしまった。 最終年度となる2019年度は当初の計画をもとに順次執行していく。具体的には、①の沖縄の琉球政府時代における「訪問教師」制度に関する歴史研究では、訪問教師の役割に関する実証的な検証をさらに進めるべく沖縄県への複数回の調査を引き続き行う。さらに、本科研研究での日本国内での知見を相対化するべく、本年度には実施できなかった米国カリフォルニア州ロサンゼルスでの現地訪問調査を当初の研究計画通り実施する。これらにより旅費支出を当初の使用計画に基づき執行したい。 また、②の重症心身障害児の教育と福祉をめぐる研究では、重症児協会内部での養護学校義務制をめぐる議論に関する資料作成のため20時間分もの「テープ起こし」が必要となる。これに物品費支出を充てることとしたい。
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