2018 Fiscal Year Research-status Report
明治期の幼稚園教育における「修身」と「美感」の形成に係る実証的研究
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17K04661
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Research Institution | Tokai University Junior College |
Principal Investigator |
桑原 公美子 (北川公美子) 東海大学短期大学部, 東海大学短期大学部, 教授 (00299976)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 康治 東海大学短期大学部, 東海大学短期大学部, 教授 (10341934)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 幼稚園教育 / 小学校教育 / 童話 / 文学教材 / ヘルバルト / 修身 / 美感 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題研究では、忠君愛国を教育目的とする「徳性の涵養」に向けた「修身重視」の方向性にあった中で、明治30年代に、美感の形成をとおした品性の陶冶を教育目的とするヘルバルト派教育学導入を契機に、修身と共に美感の形成が目指され、それは幼稚園教育も同様であったことの実証(研究系列A)、そして美感の形成を重視する動きは、幼稚園においては談話の中で、小学校においては修身や国語の中で、童話や文学教材をとおして進められた過程(研究系列B)、それらを当時の保育日誌・保育記録・教案などから実証すること(研究系列C)をとおして、明治期の幼稚園教育の実態と構造の一端を明らかにするものである。 平成30年度において、研究系列Aでは、「東京女子師範学校附属幼稚園規則」から「幼稚園保育及設備規程」に至る内容の変遷について、文献調査を行った。また、その幼小の連続性の実態を明らかにするために、幼稚園教育におけるフレーベルとヘルバルトの認識について明らかにした。小学校教育については、幼稚園教育との連続性を踏まえつつ、「美感の形成」の教育的価値が形成されていく様相をとらえることができた。 研究系列Bでは、明治期の童話の一つの形として生まれた口演童話と、幼稚園教育が深いかかわりがあったことを明らかにし、幼稚園教育における童話の実態を明らかにした。また、小学校教育の「国語科・修身科」において、童話の教育的意味が「徳性の涵養」と「美感の形成」とに二極化していった様相をとらえることができた。 研究系列Cでは、系列A・Bに関する教育・保育現場における実態を明らかにするために、保育日誌や教案の、童話・文学教材に関する記録の調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度における研究系列ごとの進捗状況は、以下のとおりである。 研究系列Aについては、東京女子師範学校附属幼稚園規則から幼稚園保育及設備規程に至る保育内容の変遷と当時の保育について、文献調査から、保育実践では「美感の形成」の教材が十分ではなかったことが明らかになった。また、明治期の幼稚園教育の基盤はフレーベル教育学と見做されていたが、当時の保育実習生の記録等から、幼稚園保姆がヘルバルト派教育学についても学び、フレーベルとヘルバルト両方の教育思想を内包する保育が行われていたことが明らかとなった。また、小学校「国語科・修身科」の教育内容の変遷の調査からは、「美感の形成」が徐々に教育的価値を得ていったことが明らかとなった。 研究系列Bについては、修身と美感の形成という教育目的を担っていた童話は、その内容を子どもに強く確実に伝えるために「話し方」にも目が向けられ、それが児童文学で展開された口演童話との結びつきを生んだことが明らかとなった。それは一方で、教育分野における童話の役割を、児童文学との違いを意識しながら、より強く打ち出さなければならないという教育目的の模索につながったことが示唆される。また、小学校「国語科・修身科」における童話の取扱いの調査を通して、その教育的意味が「徳性の涵養」と「美感の形成」に二極化していったことが明らかとなった。 研究系列Cについては、当時の保育日誌や教案における実践例について、予定していた調査方法の継続によって、ある程度の調査を進めることができた。しかし、幼稚園関係については具体的な教材としての童話や、その取扱いまで詳細に記された記録が極端に少なく、その実態を充分把握したとは言い難い。そのため、引き続き、保育日誌を所蔵している機関の情報を集め、一方で当時の幼稚園組織が出版した童話集等も対象に、実態を解明していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度(令和元年度)における研究系列ごとの推進方策は、以下のとおりである。 研究系列Aについては、引き続き、東京高等師範学校(筑波大学)等の資料調査をとおして、フレーベルとヘルバルト両方の教育学への理解・認識にもとづいた、明治期の幼稚園教育・小学校教育における、修身と美感の形成に関する教育目的について統括し、その構造を明らかにする。 研究系列Bにおいては、引き続き、国立国会図書館等の資料調査を行い、明治期の幼稚園教育の「談話・説話」、小学校教育の「国語科・修身科」における童話の教育的意味およびその取扱いについて、口演童話などの児童文学の視点と合わせることで、童話の教育的な独自性について、これまでの研究を統括して、分析・考察を行う。 研究系列Cについては、引き続き、東京高等師範学校(筑波大学)等の資料調査をとおして、明治期の幼稚園教育および小学校教育において実践された童話とその取り扱いに関して、これまでの研究を統括し、明治期の実態について実証的に検証する。
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Research Products
(2 results)