2017 Fiscal Year Research-status Report
Ethnographic Study of Guidance Practice for Social and Emotional Skill Formation in Low-Ranked High School
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17K04709
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
古賀 正義 中央大学, 文学部, 教授 (90178244)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | コミュニケーション能力 / スキル学習 / 進路未決定生徒 / 社会的職業的自立 / 若者支援NPO / スクールソーシャルワーカー / 質的調査法 / 臨床社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
低学力や不適応行動を抱えた生徒が集中する「課題集中校」(定時制通信制高校や特色校等の総称)が、将来の社会参加を可能にする広範な社会情動的スキル形成の実践にいかに取り組もうとしており、その成果はどのように理解されているかを、各種調査によりながら明らかにしようとした。 まずは、対象となる高校の現状について、基礎的な資料収集を行った。東京については、定時制高校での1-4年生にわたる経時的アンケート調査の結果(研究代表者が東京都教育委員会と連携して実施)を再分析し、生徒の進路形成の特徴と教育実践の現状について理解を深めた。例えば、専門学校進学などの曖昧な進路を入学時に回答する生徒ほど、卒業に至りにくく、進路未決定になりやすい傾向があることなどを指摘し、教師や生徒への聞き取りも活かしつつ、学術雑誌(「高校中退者問題と貧困格差」)などで調査結果を発表した。 同様な経時的調査を高知でも実施し、結果を分析するとともに、高校でのキャリア教育の実践を観察し、生徒や担当教師、スクールソーシャルワーカーなどに聞き取りをした。ここでは、地方の就業機会の制約もあり、曖昧な進学指向が強い生徒の聞き取りからは、家庭の経済的援助の不足により、アルバイト等に時間を割く実態も語られた。 さらに、調査代表者と教育委員会との連携が進む島根や宮城(あるいは、台湾・台北)でも、社会参加が困難な不登校・ひきこもり等経験者を想定した高校やNPOでの社会的スキル実践を観察し、スクールカウンセラー、NPO職員などへの聞き取りもをすることもできた。ここでも、社会情動的スキル形成の必要性を認めながら、その実践方法について模索する様子を理解することができた。 初年度は、学内予算や科学研究費の前年度延長分もあり、多くの経費を割くことなく、効率的な基礎調査を行うことができ、また成果の一部は、学術雑誌や研修会等で公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
調査研究の初年度は、調査対象校への依頼活動やアンケート調査を初めとした基礎研究に多くの時間と労力を割いた。特に、東京と地方では生徒の就業意識や就労環境などが異なるため、地域差を考慮した調査活動となり、その分、調査対象高校への訪問や教育委員会を介した連絡調整に時間と手間がかかったといえる。また、高知だけでなく、島根や宮城などにもアクセスが可能となったため、緩やかに広く調査対象を設定することにあえてとどめたところもある。 とはいえ、課題集中校を実際に訪問し、教師やスクールソーシャルワーカーなどにも聞き取りをすることができ、一般的な「社会情動的スキル」のイメージだけでなく、より地域社会に参加する方法に即したスキル獲得のイメージを理解することができた。例えば、島根の通信制高校では、校内の巡回指導で、困難を抱えた生徒個々に声掛けをしながら、何が対人不安を構築しているのかを把握し、スクールソーシャルワーカーとも連携して、個に応じたスキル学習課題の改善に取り組もうとしており、興味深かった。 今回の基礎調査では、これまで実施した量的調査の分析や聞き取りの文字お越しデータの整理など着々と作業が進捗してきたといえるが、対象校を限定したインテンシブな活動というよりも、多くの対象校の広範な実態把握にとどまっている。その点で、調査の初期段階であり、入り口の作業になっているところが多かった。 予算面から見ても、どの調査対象校で多くのデータ収集をし分析するのかの意思決定がまだ不十分であったため、依然とした特化した予算の配分や支出がなされていない(本研究費より、他の研究諸経費の活用で賄っている部分も多かった)。今後、スキル学習のどの局面に集中して、実践の実態と成果の語りを分析するのかを決定し、より具体的な調査へと進んでいきたいと思っている。また、そのための調査の体制は今年度で確定できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
既に述べたように、高校での広範な生徒指導実践のなかから、「社会情動的なスキル学習」のどの局面に集中して調査を行い、実践の実態と成果の語りを把握分析するのかを決定し、より実践的な調査へと進む必要がある。 特に、東京のエンカレッジスクールなどで実践されているドラマケーション(コミュニケーション技能の実習法)の実践などについて、支援NPOの代表者への聞き取りは行ったものの、参加した生徒や活動を担う教師への聞き取り、あるいは実践の事後における効果の評価なども分析できていない。各校で導入されているエンカウンターやアサーショントレーニングなど心理学理論に基づくスキル学習とも比較対照しつつ、調査分析を進めたい。 また、卒業間近の進路未決定生徒に焦点化したスキル獲得の不足やそれに伴う社会参加時の対人不安などの実態について、聞き取りをする必要がある。代表者による他の論考(「偏位する「社会的孤立」-その意味と課題」)でも、学校在学時の対人関係の困難体験が、その後の20代後半までの社会参加に強い影響を与えていると指摘してきた。校内の少人数のグループでの人間関係が、若者の対人関係資源(日頃語り合い悩みを共有できる人の存在)のコアになっているといえ、学校内での体験的な学習の影響は予想以上に大きいといえる。 その点で、見知らぬ他者や異年齢の他者あるいはダイバーシティを抱えた者などとの交流を組み込んだ、スキル学習が重要といえる。高知では、LGBTである若者の体験発表とワークショップの学習が行われ、参加生徒の反応も大きかった。さらに、イベントをこえ、こうしたスキルを日々の実践に組み込んで、コミュニケーションに踏み出せる「習慣形成」(文化資本化と呼ぶ)に進めることも必要である(拙稿「日々の活動で取り組む生徒指導」)。この点をさらに踏み込んで観察・聞き取りを進めていく予定であり、すでに対象校の了解も得ている。
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Causes of Carryover |
1年目の予算支出から見ると、どの調査対象校で多くのデータ収集をし分析するのかの意思決定が依然不十分であったため、特化した予算配分と具体的な支出がなされなかった。同時に、本研究費以外に、学内特別研究費の残金や他の調査研究経費の残金が多くあったため、アンケート調査再分析などに関わる当座の支出をこれら他の基金からかなりの部分で賄うことができた。さらに、パソコンや撮影機材、ICレコーダーなどの機器は手持ちのもので買い替えをすることなく進められたことも、支出を抑制した。 今後、スキル学習のどの局面に集中して、実践の実態と成果の語りを分析するのかを決定し、より具体的な調査へと進む予定であり、そこでは、調査の遂行に関わる人的物的な体制の整備や、実際に収集整理したデータの文字化図版化の作業などに多くの経費がかかると予想している。また、台湾・台北での同種の高校調査についても可能な情勢であり、スペインでの調査体験を活かして、海外比較研究としても進めていきたい。加えて、これまで各種の学会や教員研修会などでも成果の一部を口頭発表してきたので、こうした資料も自身のHPなどを構築して、各界に情報発信していく予定である。 こうした研究活動の全体に、多くの経費がかかるため、調査2年目には十分な支出が予想され、これに当初の計画を変更して順次対応したいと考える。
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Research Products
(12 results)