2019 Fiscal Year Research-status Report
Ethnographic Study of Guidance Practice for Social and Emotional Skill Formation in Low-Ranked High School
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17K04709
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
古賀 正義 中央大学, 文学部, 教授 (90178244)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 排除型社会 / 社会情動的スキル / 社会関係資本 / コミュニケーション能力 / 自立活動 / 地域ネットワーク / 生徒指導実践 / 質的調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、低学力や不適応行動を抱える生徒が集まる「課題集中校」において、将来の進路形成や社会参加を可能にする「社会情動的スキル」形成の活動がどのように取り組まれ、その実践過程や波及効果が当事者(生徒や教師、保護者など)にいかに意識されているのかを、各種の現場調査(東京、地方・高知あるいは海外・台北)によりながら明らかにしようと試みた。特に本年度は、研究代表者の在外研究期間(4-9月)と重なったため、海外調査にも重きをおいて実施することとなった。 対象校生徒の「社会情動的スキル」形成にかかわる実態把握については調査・資料収集を今年度も行った。すでに実施した特色校調査と共通項目を用いたアンケートでは、高知での同一の生徒に対する3年間のパネル調査の結果を全体に整理・分析し、各種の学会で発表した。同時に、台北で同種の調査を低ランクにある3高校の2年生に実施し、日本での結果との比較検討を行い、台湾・中国の研究者に向けて発表した。 対象校(高知)では、家庭の文化資本の不足あるいは内閉化した社会関係資本の欠落による生活習慣形成の困難や仲間関係の歪みが問題視され、「自立活動」支援と呼ばれる対人関係を促す働きかけが実践されていた。他方、台湾の高校では、内閉的なオタク文化の広がりもあるものの、親戚や地域の先輩・知人など他者との関係が学校外にも広範に及んで、より豊かな対人関係の広がりがスキル形成を支えている側面のあることが確認できた。 本年度は、実施してきた調査の分析、アンケート調査の整理・公表、論文・講演資料等の作成などに労力を割いた。最終の報告に至る予定だったが、新たな海外調査を実施できたため、国際比較にも論考を広げていった。このため、調査成果を雑誌論文や研究会、青少年育成指導者向け研修会等で広く公表するとともに、さらに1年間調査研究を延長する方向で作業を進めることに日程を変更した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究3年目として、初年度の基礎研究を踏まえつつ、対象校生徒への継続的なアンケート調査の分析・整理および生徒や教師等へのフォローに時間を割くことになった。 同時に、生徒の進路意識や就労環境、親族関係などが日本と異なる台北(在外研究先)の調査では、「社会情動的スキル」にかかわる学校現場の課題を異なる視点から調査者自身も体験し理解することができ、有意義だった。台北の低ランクにある課題集中校をたびたび訪問し、台湾の研究者・実践者も交えて聞き取りすることによって、地域社会のネットワークや家族関係の強さなどを背景としたスキル形成の違いや具体的な指導実践の差異を理解する方向性が示唆された。 他方で、高知で行った3年間の調査の分析は、新たな局面を迎えたといえる。ここでは、発達障害などを含む特別支援教育のノウハウなどによって、個に応じた社会参加の課題改善に取り組む方法論を模索していた。「社会性発達」の実態調査も県教育委員会が実施し、数量的観点から生徒指導の効果を把握しようと試み、このデータも本調査の分析と関連付けて検討する方向となった。いいかえれば、調査者の調査結果と、別の調査との連携が可能となっているのであり、分析に学校の影響だけでなく、地域の特性や対人ネットワークについても取り込む分析が可能となる見込みとなった。 これら継続的研究によって、残された予算を活用するデータ収集・分析の課題がより明瞭になってきたので、今後スキル学習の実態とその波及効果を分析し公表する方法を検討し、具体的な最終段階の調査・分析へと進みたい。そのための調査対象への働きかけも順次行ってきており、最終年度にはよりよい成果が見込める。
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Strategy for Future Research Activity |
課題集中校の「社会情動的スキル学習」のどの側面で当事者の評価が高いのか、特に学習の過程で影響を与えていく関連要素(アルバイト経験やキャリア教育体験など)は何かを、3年間のパネル調査の結果から分析することが残された課題である。本年度調査した台北のように、そもそも地域社会や親族組織などのネットワークが強いと、家庭を媒介とした社会関係の資源が意識され、学校での学習や生活に依存する度合いが低くなる。学校でのスキル学習が突出して重視されることになりやすい日本の地域環境(職場やネットなども連関)自体の特性に着目しつつ、分析を進めることが肝要である。 卒業後にも学校時代に困難を感じた経験が不安を生み出しリカバリーが難しくなる日本の若者の「社会情動的スキル」の歪みについて着目する必要がある。調査者による論考(内閣府『令和元年度・子供・若者の意識に関する調査報告書』2020)でも、学校生活の負の体験の後遺症がその後の場や人間関係のなじめなさあるいは空気の読めなさに接続していた。しかも、こうした困難な若者の改善の契機は、学校の友人・家族の助言や時間の経過による気持ちの変化であると回答されており、それがあって初めて、専門機関や教育施設の働きかけや相談がより有効に感じられたとされた。 この点で、高齢者を配置し異年齢コミュニケーションをとる実践や職場体験による場になじむ自己への理解の活動など、学校を介した社会参加の機会を拡大し構築する実践がより一層必要である。学校自体で行うスキル学習は、広範な参加への導きとなるべきであり、「ゆるやかな一歩」を構築する準備的活動を行う必要がある。 そこで、延長後の次年度でさらに、学校での体験・スキル学習と学校外でのスキルを伴う経験との接続を掘り下げる予定である。国際比較もこの点の理解に役立つといえ、さらにインタビューや観察も並行して試みるつもりである。
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Causes of Carryover |
2019年度は、所属大学から在外研究の機会を頂いたため、4-9月の半年間を台北で過ごした。台北でも、「課題集中校」に類する高校を探し出し、そこを訪問して調査に向けたコンタクトを取る作業から開始した。ビジター研究員となった大学の関係者の協力もあり、7月には調査実施にこぎつけ、9月には一次報告書も作成し配布することができた。この間に、配布した調査票の翻訳代金や印刷代、対象生徒への粗品経費、調査協力頂いた高校教師や管理職への謝金、インタビュー用の自動翻訳機、あるいは、報告書の印刷代とその中国語翻訳の代金、学校に贈呈した感謝状の代金など、諸費用を当研究費から充当することができた。 しかしながら、日本の高校での調査分析は実質的に行なえなくなり、すでに収集したデータの再整理とフォローアップに終始したため、予定していた最終段階の調査関連費用やその旅費、あるいは、再分析の経費などを使うことができなかった。加えて、業者委託との関係から、インタビューの文字お越しやそのソフトを用いた定性分析なども行わなかった。 そこで、今回2020年度まで研究期間を延長して頂き、こうした予算を使いながら、最終段階の調査と分析を試みたいと思っている。調査用機材の補充、交通費、業者委託文字お越し、報告書印刷費などを想定している。
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Research Products
(7 results)