2021 Fiscal Year Research-status Report
Ethnographic Study of Guidance Practice for Social and Emotional Skill Formation in Low-Ranked High School
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17K04709
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
古賀 正義 中央大学, 文学部, 教授 (90178244)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自立活動支援 / 特色高校 / コミュニケーション能力の変容 / デジタルネイティブ世代 / 機関間連携 / 内閉化した関係性 / スクールソーシャルワーカー / 質的調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍の影響によって、当初予定していた調査対象で実施できなかった調査が数多かったが、課題集中高校でのコミュニケーションスキルの育成にかかわる教育活動の実際や支援活動による孤立しやすい生徒への働きかけの一端を理解することはできた。 具体的には、中央大学『教育学論集』に投稿した「地方低ランク高校において孤立化する生徒の現状と支援の課題」(2022年3月)という論考に結果の一端を執筆している。ここでは、「何でも相談できる人が誰であるか」を尋ねた結果から、孤立しやすい生徒層と多様な関係性を維持できる生徒層が、入学時の非常に早い時点(6月頃)から分化している事実を継続調査から明らかにした。孤立層が全体の3割弱を占めるのに対して、保有層は4割弱となっていて、両者で、学校を居場所と感じる感覚や好きなことを学べている感覚に大きな差のあることが指摘できた。低ランク高校であるため、中学時からの不登校傾向や勉学への自信の低さは多くの生徒に共通してあるものの、その入学後の影響には差があるとみられた。 同時に、孤立層では自己評価も低くなり、将来展望が不明確になる傾向も強い。「努力すれば希望する職業につくことができる」などの回答では、入学時の希望実現を危ぶむ低い評価が3年次まで続いていくことがわかった。高校段階での社会関係の資源の不足は、いまここの生活だけでなく、今後の社会生活の参加にまで影響を与えるという結果であった。パットナムが指摘したように、「橋渡し型」の広がりのある緩やかな対人関係の形成が地域社会の中で乏しくなっており、学校での関係への一元化した依存が強まっていることの影響も大きいといえた。東京のエンカレッジスクールでの観察調査も始めたが、ここでも初年次段階で自立支援教育が試みられ重視されていた。先の結果を踏まえると、社会情動的スキル形成のための生徒指導に関して今後への示唆ある調査結果といえた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
いうまでもなくコロナ禍の影響によって、高校でのフィールドワークがほとんど実施できなかった。このことが研究の遅れを導く大きな要因であった。調査の計画では、東京や高知などの地域で課題集中高校(発達障害傾向や非行傾向などを有する生徒を多数指導する特色ある高校群)における近年の生徒指導の特質を明らかにし、とりわけ社会情動的スキルの育成活動として意識されているグループ活動や個別面談指導などを観察する予定であったが、ほとんど行えなかった。そのため、活動の初発的な理解に向けて、限られた担当の教師ならびに管理職へのインタビューなどで補填することを余儀なくされた。 そこで、調査計画をかなり変更し、生徒へのアンケート調査の実施と分析に重きを置くことにした。具体的には、高知などで、すでに実施していた1年次の生徒への学校生活や指導の影響に関するアンケート調査を単年度にとどめず、3年次までの継続調査にすることとし、3年間で5回のパネル調査(記名式調査で個票の追跡可能)を行うことにしていった。それゆえ、より詳細なアンケート分析に時間をかけることができ、中学時代には不登校などの問題に遭遇していても、高校内で生徒指導の影響が多々見られる生徒層と、それが乏しい生徒層を区分し追跡しながら、意識調査に限られはするが、結果を理解することもできた。 もともと東京ではこの形の高校生調査を実施していたので、ノウハウはあり、調査票の分析においても東京と地方との比較に比重をおいて実施することができた。この点でやや遅れはあるものの、今年度はフィールに入って先の仮説の検証を行うことが可能であると思える。実際、東京の1つの課題集中校での実践については、昨年度末から観察や聞き取りが始められ、一定の成果がえられている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の調査については、次の当方の科研費研究と連続性を担保しつつも、一旦完結させていく予定である。そこでの大きなねらいは、「高校内で孤立しやすい生徒層と多様な関係性を維持できる生徒層が、入学時の早い時点から分化し固定しやすい事実」を生み出す諸要因と、生徒指導実践によるその改善事例を、アンケートだけでなく、インタビューや観察など質的な研究も交えた調査から明らかにするということである。 具体的には、昨年末から東京の課題集中高校で聞き取り調査を開始している。この学校では、発達障害傾向を抱える生徒が多数入学しており、同時に1年次から多数退学もしている現状がある。担当教師によれば、問題生徒の怠学傾向の理由がわかりにくく、また家庭の歪みなど学校生活だけが問題ともなっておらず、生徒の問題の理解そのものが困難であるという。そこで、「自立援助」の広範な教育活動を導入し、他者とのコミュニケーションが難しい生徒の社会背景や対人関係を把握しつつ、教師さらには養護教諭・スクールカウンセラーなどの相談チームで支援するという体制を整備している。 この結果、ヤングケアラーと呼ばれる家庭のケアに忙しくこれまでに十分な学習をすることができなかった生徒の存在や、内閉的なひきこもる生活に入り込み対人関係にかかわる外見などの恐怖心を訴える生徒の存在などが明らかになってきたという。原因を決めつけていた時には見えなかった背景が見えてきたという声が多々あった。支援体制づくりに努力し、チーム学校として幅広い社会情動的スキル形成を重視した個別処遇型の実践を展開している事例といえ、今後こうした対象高校での調査事例を蓄積していく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響によって、当初予定していた調査対象高校で実施できなかった調査が数多かった。そのため、旅費や文字おこし経費、研究成果の印刷費などがまったく使用されず、残高となってしまった。また、アンケートの処理経費なども大学の協力などでほとんど支出せずに済ますことができたため、ここでも残額が生じた。 今後、課題集中高校でのコミュニケーションスキルの育成にかかわる教育活動の実際や支援活動による孤立しやすい生徒への働きかけの一端を理解する調査活動が本格化するため、次年度には完結的な支出のめどが立っている。
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Research Products
(4 results)