2018 Fiscal Year Research-status Report
バイオミメティクス・ナノ構造制御された自己修復滑液膜表面による熱伝達効率上昇
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17K04992
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
白鳥 世明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00222042)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 熱伝達 / 凝縮熱 / 熱変換 / 撥水 / 凹凸構造 / 固体滑液膜 / 金属管 / エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、金属基材上の滑液膜による液滴凝縮および熱伝達効率の上昇に関する検討を行った。 凝縮熱伝達は水蒸気から熱を取り出すことによって行われるエネルギー交換方法のひとつである。水蒸気が凝縮し水に形態を変化する際、熱量の大きい潜熱が放熱される。これを用いることによって高効率の熱変換が実現される。これはエアコンの室外機や発電所などで使われており、凝縮熱伝達率の向上は資源の有効利用につながる。典型的な凝縮器の表面は金属でできているため多くは親水面である。よって水が凝縮すると濡れ広がり薄い液膜をつくるため熱伝達率が低下してしまう。凝縮器を撥水面にすると水が滴状に凝縮し、滑り落ちるので高い熱伝達率を得ることが可能となるため凝縮器表面を撥水性にするのが望ましいと考えられている。しかし、マイクロからナノレベルの凹凸構造をもたせた撥水面は凝縮環境下において凹凸構造内部で凝縮が進み液滴にピン止めが起きてしまうことが報告されている。これを克服するために油を凹凸構造で保持することによって撥水性を発揮する液膜の利用も提唱されたが、潤滑油が揮発してしまうことから長期的な撥水性の維持は依然として困難なままである。平成30年度、本研究では凹凸構造を有さずに撥水性を発揮する固体滑液膜を利用することで長期的な凝縮率熱伝達率の向上を目指した。 申請者らは金属配管や金属平板上に固体滑液膜を形成し、水蒸気から水滴への液滴凝縮を計測することで、熱伝達係数が1.5倍に上昇することを確認した。本研究では、この成果を発電所や冷暖房、冷蔵庫等の熱交換機への適用をめざして、基礎的知見を積み上げ、熱伝達効率の最適化に関する基礎研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
凝縮熱伝達性能評価の実験は恒温恒湿槽内にペルチェ冷却器を導入し、評価の対象とする基盤を1℃に冷却しながら温度30℃、湿度80%の環境下で行なった。固体滑液面の比較対象として未処理の銅基板、凹凸構造による撥水面を用意し同様の環境で試験することで熱伝達性能の違いを評価した。 熱伝達効率は凝縮試験中に凝縮した水を回収し、その質量を各々に測定することでそれぞれの熱伝達係数を計算し、評価を行った。実験の結果、固体滑液膜をコーティングした同基板は未処理の銅基板に対して149%の熱伝達率係数の向上が確認された。これは固体滑液膜が長時間撥水性を維持することで小さな水滴を滑落させ続けることにより水滴による熱抵抗率の増加を防いだだけでなく、新たな水滴の凝縮が可能となる固―気界面を常に作り続けたためだと考えられる。実際に凹凸構造による撥水面は3時間もしないうちに水滴のピン止めが生じ水の転落性が悪化したのに対して、固体滑液膜は30時間経過してもその液滴滑落性能を劣化させることはなかった。これは固体滑液膜が平滑な面を持ちながらも撥水性をもつという利点が生かされた為であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度はこれまでの研究成果を融合し、エアコンの室外機を想定した複雑な配管、風雨にさらされる環境での使用を想定した、自己修復機能をもつ滑液膜を熱交換機モデルにコーティングした際の熱伝達効率の最適化およびロバスト性の評価を行う。実験室内外に小型試験装置を作製し、温度等の物性値を計測する。装置の作製は申請する消耗品費にて材料を購入し、作製する。得られた結果を総合的に検討し、バイオミメティクス・ナノ構造制御された滑液膜表面による自己修復機能及びエネルギー高効率化に関する知見を総括する。 本研究ではバイオミメティクスにより自己修復機能を付与した滑液膜(Gel-SLIPS)の構築を推進するが、ロバスト性に問題がある場合には、申請者らが2016年8月に学術雑誌Advanced Functional Materialsに発表し、掲載された、SPLASH構造に切り替え、比較検討を行う。SPLASHとはa surface with pi-interaction liquid adsorption, smoothness, and hydrophobicity の略であり、パイ電子相互作用により非常に薄い液膜を表面に保持させ、混和性のない液体を滑らせる新規原理である。このSPLASH構造への液体補充機構であれば、ナノファイバーを用いた葉脈類似の構造の構築により、自己修復機能を達成可能である。 高分子複合材料の作製、自己修復性の評価、熱伝導の測定、測定系の作製と要素技術ごとに研究成果をまとめ、最終的な目標に向かって、有機的な協力体制のもとに進める。
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Research Products
(4 results)