2018 Fiscal Year Research-status Report
非線形拡散反応系における漸近展開法の開発とその応用
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17K05334
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
辻川 亨 宮崎大学, 工学部, 教授 (10258288)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | differential equation / bifurcation / singular perturbation |
Outline of Annual Research Achievements |
自然界で観察される時間・空間パターンの幾つかは反応拡散法方程式によって記述されると考えられている。本研究では走化性を特徴に持つ生物のパターン形成のメカニズムを、移流反応拡散方程式を解析することで明らかにする。特に方程式に含まれるパラメータに関する周期解を含めた定常解の存在およびその安定性への依存を示すことで現象の理解につながることが期待される。反応拡散方程式のパラメータ依存による定常解の大域的な構造を示すことには困難さがあり、方程式の拡散と移流係数を無限大にしたある種の極限系(縮約系)から解析を始めた。その定常問題は積分条件付きのスカラー楕円型方程式である。今回は双安定な増殖項に関する場合を考察し、ロジスティックの場合との結果を比較した。特に有界区間でNeumann境界条件のもと、2つの増殖項を1パラメータでつなぐことにより解構造が連続的に変化することを示した。そのため、双安定な反応項を持つスカラー方程式の拡散係数をパラメータとした大域的解構造は分岐理論により十分に解析されていることから、Levelset解析と特異摂動法を用いて、積分制約条件を調べることが可能となった。拡散係数と系がもつある種の(エネルギー)量をパラメータ空間としたとき、ほとんどの場合、解集合が2種類の解を結ぶ単純曲線で表示されることを示した。 非局所項を持つAllen-Cahn型の方程式について、有界区間でNeuman境界条件のもと定数解から分岐した非定数定常解は方程式の対称性から拡散係数をパラメータとして、拡散係数を0までの解の存在とその表示を得た。また、その解は空間変数に関して対称な解(奇関数)であり、特定の拡散係数の値で非対称な解が(2次)分岐することを、Morseの補題を用いて示し、また楕円関数および完全楕円積分による解表示を用いることで、このような2次分岐点がただ1つ存在することも示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞極性モデルについて、その縮約系は方程式の特殊性から楕円関数や完全楕円積分を用いて解表示が可能となり、拡散係数などをパラメータとした大域的解構造を示すことができた。解析方法は、適当な変換によりこのモデルはすでに考察してきた非局所項を持つAllen-Cahn型の方程式に変換できることがキーとなっている。また、定数解から分岐した解の安定性を、線形化固有値問題を解析することで示した。ここで1次分岐した対称性のある解は安定であるが、2次分岐点を過ぎると不安定になることを示すため、Sherman-Morrison formulaの応用と具体的は解表示を用いた。また、2次分岐解の拡散係数が十分小さい場合に対応する特異解が不安定であることを、特異極限解析を用いて示した。しかし、安定性に関係のある拡散係数を固定した場合の2次分岐解に関する一意性(サドルノード分岐の存在)および2次分岐の方向の証明は残されている。 走化性モデル方程式の縮約系は積分制約条件付きの単安定スカラー方程式となる。この方程式について、移流係数の大きさで分類すると、定常解の大域的解構造はほとんどの場合2種類の解(定数解、境界層をもつ特異解)を結ぶ曲線として、パラメータ平面上で表示される。特別な場合、どのような大域的解構造が起こりうるかについては未解決である。また、Crandall-Rabinowiz理論により定数解から分岐した解についてその分岐方向を解析することで、分岐解の安定性を示すことができた。しかし、すべての分岐解の安定性について示す問題が残されている。また、金属触媒反応モデルについて、定数解からの1次分岐が起きていることはすでに証明しているが、特別な場合には2次分岐が起きることを数値計算で求めている。これについては非線形項が複雑であり解を楕円関数などで表示できないということから解析には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
非局所項を含むAllen-Cahn方程式を有界区間でNeumann境界条件のもと、定数解から分岐した対象解が2次分岐をお起こし大域的に存在すること、および拡散係数が小さい場合の特異解の安定性はすでに示した。しかし、分岐した解が新たにサドルノード分岐などを起こすかは未解決であり、これは解の安定性とも関係した問題として今後取り組んでいく。また、Direchlet境界条件のもとでの同様の問題も考察を進めている。境界条件が異なるため、完全楕円積分を用いた解表示は可能であると予想しているが、まだ解決していない。大域的な解構造を数値的に求めているが、通常の分岐理論では扱うことができない問題も含まれている。走化性モデル方程式の縮約系である積分制約条件付き単安定スカラー方程式について、定常解の大域的構造を決定するために、ある種のエネルギー量が十分小さい場合に定常解の最大値が発散しないことを示す必要がある。そのために解の陰的表示を詳細に評価する。一方、数値計算により定数解から1次分岐した解は安定であるがその後不安定化する。この時Hopf分岐により安定な周期解が出現する。これも2次分岐現象ととらえることができるが1次分岐点から離れているため一般的に難しい問題であるが解析を試みる。 2つの対立する遺伝子をもつ生物の個体数変化を記述する”完全優位性”の場合のモデルの1つがNagylakinにより提唱された。このモデルは、空間依存性のある増殖項をもつ単独の反応拡散方程式である。空間依存の条件を符号を変える関数として導入し、その積分の条件により定常解の存在及びその安定性が議論されている。そこで、この関数としてパラメータ付きの具体的なものを用いることで、すでに得られた解のパラメータに関する定数解からの分岐解としてとらえることを目指す。数値計算によりその構造を予想している。
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Causes of Carryover |
繰越金が生じた理由は共同研究者との作業の日程調整に不備が生じたことであり、今年度は計画通り実施する予定である。
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