2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K05374
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
武村 一雄 日本大学, 理工学部, 准教授 (60367216)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀高 惟倫 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (00047218)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | グリーン行列 / ソボレフ不等式 / 最良定数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画4年目にあたる令和2年度は,多角形,多面体および切頂多面体など,これまで蓄積されてきた各種離散ソボレフ不等式に対する最良評価(最良定数,最良関数計算)のデータを再生核理論の立場から再整理した。こうした整理から,頂点数が同じ有限グラフの仲間同士に対する最良定数の比較を行うことにより,それら最良定数の大小関係が各有限グラフの「たわみにくさ」,すなわち,「硬さ」に結びつくことが分かった。これは離散ソボレフ不等式が,各頂点における定常状態からの変位に対する絶対値の最大値の2乗を,上からポテンシャルエネルギーの定数倍で評価する不等式となっているためである。関連する主な研究実績は,「C60フラーレンにおける1812個の異性体に対する離散ソボレフ不等式の最良定数」である。本研究において,対象となる異性体は各辺に一様なバネ定数を持つ線形バネの古典力学モデルとしてとらえ,離散ソボレフ不等式の最良評価を行った。1990年代には,スパイラルアルゴリズム,吉田・大澤アルゴリズムやブリンクマン・ドレスアルゴリズム(パッチステッチ法)など,異なるフラーレンを列挙するアルゴリズムが提案されてきたが,本研究ではパッチステッチ法を用いてC60フラーレンの異性体を列挙し,1812個の異性体をすべて取得した。また,これらに対応する離散ソボレフ不等式の最良定数をすべて計算し,バッキーボールの最良定数が最も小さいことを証明した。 近年の我々の研究結果から,離散ソボレフ不等式の最良評価は結晶構造を持つ物質の物理的特性と結びついていることが分かってきた。特に,最良定数はこれら力学モデルの剛性を表す指標と考えられ,最良定数が小さければ小さいほど,対象となる物質はより硬いということになる。したがって,本研究結果はC60フラーレンにおける1812個の異性体の中でバッキーボールが最も剛性が高いことを示す証左資料となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度に得られた研究成果「C60フラーレンにおける1812個の異性体に対する離散ソボレフ不等式の最良定数」は,関連の深い Japan Society for Industrial and Applied Mathematics のジャーナル JSIAM Letters にて受理後,出版されている。これまで得られた連続・離散ソボレフ不等式の最良評価データを蓄積,再整理することから,本年度得られたような物質の物理的特性に関する知見をいくつか得つつある。これまで得られた研究成果に対する論文執筆および出版については,当初の予定通り進められている。こうした状況を総合的にみてみると,本研究課題の進捗状況はおおむね研究計画当初の予定通り順調に進展していると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画初年度より,我々は連続・離散版ソボレフ不等式の最良評価データを収集・整理してきた。その過程の中で,「棒のたわみ問題」に対する各種境界値問題の内,半直線上の自己共役な単純型境界値問題(固定端,ディリクレ端,ノイマン端,自由端)に対するグリーン関数の正値性および階層構造が未整備であることを発見したため,現在未整備箇所について研究を進めており,得られた研究成果については関連の深い学会誌の論文に投稿予定である。この他に,連続版ソボレフ不等式の最良評価において,「糸のたわみ問題」に対する非局所境界条件を設定して,グリーン関数の正値性,階層構造および再生核構造の究明を行う方策で研究を推進している。今回設定される糸のたわみ問題における非局所境界値問題では,これまで得られた単純型自己共役境界値問題に対するグリーン関数より複雑な形をしているが,ある非局所境界条件においては,すでに単純型自己共役境界値問題の場合と同様にソボレフ不等式を導出,その最良評価が得られることを突き止めた。次年度は,こちらの問題も平行して研究を推進したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最も大きな理由は,研究計画当初に予定されていた研究集会,学会または国際会議での出張による口頭発表が,新型コロナウイルスの国内外におけるまん延防止措置のために,現地において対面で行えなくなったことにある。こうした事態を受けて,旅費の未使用額が発生した。しかしながら,研究自体はおおむね順調に進められており,研究成果物としての論文も当初の予定に沿って発表されていることから,次年度以降に関連の深い研究会,学会あるいは国際会議にて研究発表を行う予定である。
|
Research Products
(1 results)