2020 Fiscal Year Research-status Report
Research on the quantum nature of black hole via superstring theory and gauge theory
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17K05405
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
百武 慶文 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (70432466)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 超弦理論 / 量子重力 / インフレーション宇宙 |
Outline of Annual Research Achievements |
理論物理学において重力の量子論を完成させることは、20世紀から21世紀に引き継がれた課題である。重力の量子化についてはいくつかの野心的な提案がなされているが、とりわけ超弦理論は1980年代に提唱されて以降精力的に研究がなされており、重力の量子論として最有力な候補である。 本研究課題は、超弦理論における重力の量子効果を取り入れることで、ブラックホールの微視的状態や宇宙初期の量子状態の解明を目指している。ブラックホールの微視的状態については平成31年度まで研究を行い、重力の量子効果を解析し、対応するゲージ理論によるブラックホールの微視的状態を新たに提案した。具体的には、超弦理論の低エネルギー領域で実現されるブラックホールについて、対応する微視的状態をD粒子で構成されるファジー球の束縛状態として実現されると予想した。そして、D粒子の多体系の有効ポテンシャルを計算して、ブラックホールから得られる重力場と漸近的に一致することを確認した。 令和元年度から2年度にかけては、超弦理論における重力の量子効果を宇宙初期の状態に適用し、インフレーション宇宙の実現に向けた研究を行った。現在の宇宙観測により、宇宙初期にはインフレーション的加速膨張期があったと考えられている。ただし、この時期は高温高密度状態であり、重力の量子効果が重要となる。令和2年度の研究では重力の量子効果を摂動的に取り入れて、インフレーション時に生成される重力波について検証を行った。摂動的な考察のためインフレーションの終了時期しか記述できないものの、スケールに依存しない揺らぎが生成されることを確認した。 本研究課題は令和3年度まで研究期間を延長しており、現在は高次元のDブレーンについての量子補正の影響を調べるために、11次元超対称性に基づく量子補正項の研究に着手している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初はゲージ重力対応の研究に重点を置いていたが、宇宙論的応用に比重を置いたため、前者の解析に着手するのが遅くなった。コロナ禍による研究および教育環境の変化への対応に時間が必要だったことも、進捗がやや遅れた一因として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
超弦理論にはD粒子以外にも高次元に拡がる高次元Dブレーンが存在し、それらは低エネルギー領域においてブラックホール解として記述される。高次元Dブレーンは電荷や磁荷をもつが、D粒子の場合と異なり、これらの電磁場の量子補正項は明らかになっていない。今後の研究の方向としては、このような電磁場の量子補正項を解明することを推進する。 具体的には超弦理論の強結合領域に対応するM理論について考察し、その電磁場の量子補正を解析する。M理論は11次元超対称性を備えており、この対称性を満たすように電磁場の量子補正を導出することが可能である。電磁場としては4階反対称テンソルFが存在し、令和3年度はFの8次の項の計算を重点的に実施する。この項の存在は弦の摂動計算から予言されているものの、詳細な構造はほとんどわかっていない。この項の構造が明らかになれば、M2ブレーンやM5ブレーンの量子補正の解析に繋がっていくと期待される。 この研究は計算プログラムを使った解析であるが、コード自体は着実に作成している。超弦理論で知られている摂動計算の結果との整合性も検証しながら解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、計画段階で予定していた研究会や学会が全てオンライン開催となり、旅費として使用する必要がなくなったため、次年度使用額が生じた。今年度は研究遂行で必要な計算機設備を整備するために使用する。
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