2018 Fiscal Year Research-status Report
地上実験による宇宙暗黒物質と宇宙バリオン数の起源解明
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17K05410
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
淺賀 岳彦 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70419993)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ニュートリノ / 宇宙バリオン数 / 宇宙暗黒物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、標準模型における宇宙暗黒物質、および宇宙バリオン数の起源の問題を解決し、ニュートリ ノ質量の起源も同時に解決する理論の探求を進めている。その際、振動実験では不明のニュートリノ質量の絶対値、さらにはニュートリノがディラック粒子かマヨラナ粒子かなど、ニュートリノの基本的性質を把握する事が重要である。 本年度の研究実績の一つとして、ニュートリノの性質を解明するために、正の電荷を持ったミューオンと電子の束縛状態(ミューオニウム)を考え、その超微細構造に対するニュートリノ対の寄与を評価した。先行研究ではこの寄与をフェルミの4体相互作用を用いて評価してきた。我々は、世界で初めて、標準模型に基づき電弱相互作用の2次の補正として計算を実行した。その結果、これまではフェルミ定数の二乗の寄与とされてきたが、実際にはニュートリノ対に寄与はフェルミ定数と微細構造定数の積に比例する事が判明した。また定量的には、ニュートリノ対の寄与は非常に小さいこと、さらにニュートリノ質量に対する依存性は無視できるほど小さい事が示せた。この結果、電弱相互作用の二次の補正は現在の観測精度と比べると小さいため、実験的に標準模型からズレが今後観測された場合、それは新物理の寄与を示す事がわかった。この論文は、arXivに発表すると共に、現在査読付雑誌に投稿中である。 ”Precision electroweak shift of muonium hyperfine splitting”, by T. Asaka, M. Tanaka, K. Tsumura, M.Yoshimura, [arXiv:1810.05429].
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ニュートリノの基本的性質を解明するために、正の電荷を持ったミューオンと電子の束縛状態(ミューオニウム)の超微細構造に対する補正を標準模型に基づいて電弱相互作用の二次の補正を正確に評価した点は、本研究の重要な成果の一つとして挙げられる。この評価は、先行研究の近似の不満足点を克服する世界で初めての研究となった。
さらに、新規の宇宙バリオン数生成機構について研究が進展した。本研究では、主に新しい素粒子である右巻きニュートリノによる宇宙バリオン数生成機構を検討してきた。しかし、研究協力者の石田裕之博士と共に、右巻きニュートリノを導入しない素粒子模型におけるバリオン数生成の可能性を検討してきた。その結果、宇宙の温度が電弱スケールよりも低い温度で働く新しい生成機構を発見した。この機構は、右巻きニュートリノと無関係であるだけでなく、これまでの多くのシナリオで検討されてきた、高温度領域での働く電弱ゲージ理論特有のバリオン数を破る過程(スファレロン過程)とも無関係の生成機構であり、新奇の機構である。この研究成果については、現在論文発表を準備しているところである。
以上のように、想定していた課題に加え、研究の過程で新規の成果も生み出せたため、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。これらの論文を発表し、査読付き雑誌での掲載に間に合わなかった点を減点対象とした。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度になるため、研究の総仕上げをする。本研究では、軽い右巻きニュートリノが宇宙暗黒物質になる可能性を検討し、その地上実験による検証に向けた解析を進めてきた。現在、強力なニュートリノ生成源として提案されたニュートリノペアビームを用いた解明方法について検討してる。この研究課題について最終的な決着をつける。このビームによる暗黒物質の生成量の評価はこれまでの研究で目処がついた。そこで、今後は実験計画での最善の検証手法の考案に取り掛かる。特に、背景事象の理解を深め、暗黒物質の信号の感度を向上させる方法を検討し、探索感度を定量的に評価し、実験グループに結果を提案する。
一方、宇宙バリオン数生成機構の解明に向けては、現在稼働を開始したBelle II実験での解明について研究を進める。特に、レプトン数を破る過程、およびレプトンフレーバーを破る過程を考え、右巻きニュートリノによる宇宙バリオン数生成機構を検証する手法を探究する。特に、B中間子の崩壊だけでなく、タウレプトンの崩壊にも注目して研究を進める。さらに、新素粒子右巻きニュートリノの世代間振動現象を検出する方法についても解析を進める。
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