2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K05442
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北澤 正清 大阪大学, 理学研究科, 助教 (10452418)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 格子QCD / 相関関数 / エネルギー運動量テンソル / 相対論的重イオン衝突実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
強い相互作用の基礎理論である量子色力学 (QCD) は、初期宇宙や中性子星内部のような超高温・高密度環境下において、カイラル対称性の回復や非閉じ込め相転移などの多様な相転移現象・物性現象を持つ。これらの現象の理解は、宇宙史の解明や相対論的重イオン衝突実験の理解のために必須となる重要課題である。 本研究では、これらの現象の理解に向け、格子QCD第一原理数値計算を用いた研究を行っている。本期間中の研究では、超高温物質の動的性質、特に流体方程式に現れる基本定数を解析する上で必須となるエネルギー運動量テンソル相関関数の、クエンチQCD上での解析を終了し論文として発表したことが重要な成果として挙げられる。この量は、従来様々な困難から格子QCD上での測定は非現実的とされていたものであったが、本研究では勾配流法と呼ばれる新しい手法を適用することで高統計解析を実現した。この研究により、各種の熱力学的関係式や保存則の成立を数値計算で初めて陽に示した他、勾配流法による観測量の解析の妥当性検証という意味でも有意義な成果となった。この相関関数に関する成果は、今後、輸送係数などの動的物理量の測定への応用につなげていきたい。また、本年度はフルQCDでの同様な解析にも取り組み、一定の成果を挙げることができたが、こちらはクエンチQCDと比べると依然誤差が大きく、誤差の低減は今後の改題である。更に、これらの研究で使っているエネルギー運動量テンソルの測定を、クォーク間相互作用の伝達機構解明に適用する研究にも取り組んでいる。今後はこのような方向性で本研究が発展していくことも期待できる。 これらの成果に加え、相対論的重イオン衝突実験での様々な観測量を用いて高温物質の性質を解明する研究にも精力的に取り組んだ。保存電荷ゆらぎや、レプトン対生成率に関する研究がこれに相当する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本期間中に、クエンチQCDでの解析に関しては、エネルギー運動量テンソルの相関関数の測定に区切りが付き、論文として発表することができた。この研究は、各種の熱力学的関係式や保存則の成立を数値計算上で検証した最初の成果となり、これ自体が有意義な結果であることに加え、我々が以前から行っている勾配流法を用いた相関関数測定の妥当性の傍証を得るという意味でも重要な成果となった。この成果により、流体方程式に現れる基本定数を格子QCD数値解析で決定する道筋が見えた。 また、フルQCDでの解析についても、勾配流法を用いた熱力学量の解析を論文発表にこぎつけることができた。この研究では、勾配流法を用いて得られた熱力学量が、従来の手法のものと一致することが示され、フルQCDにおいても勾配流法をエネルギー運動量テンソルの解析に適用することができることを示す重要な成果が得られた。また、この手法を用いたエネルギー運動量テンソル相関関数の解析にも取り組んでいる。 これらの成果に加え、勾配流法を用いたエネルギー運動量テンソルの測定を、クォーク間相互作用の伝達機構解明の研究に適用したことも本期間の重要な研究成果として挙げられる。この研究では、エネルギー運動量テンソルの空間成分である応力テンソルの空間分布の測定を行い、クォーク間相互作用が場の歪みを通して近接相互作用的に伝達する様相を可視化することに成功した。この研究は、申請時に予定していたものとは趣旨が異なるが、予期しない興味深い成果が得られたため、今後はこの研究も重要課題として精力的に行っていきたいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
クエンチQCDでのエネルギー運動量テンソル相関関数の解析に関しては、これまでに発表した研究成果は全て保存電荷を含むチャンネルの、ゼロ運動量での結果のみであったが、今後、①有限運動量、②保存電荷を含まないチャンネルの解析、へと研究対象を拡張することを予定している。有限運動量相関関数の解析を行うことで、従来使われていたものとは全く異なる手法による音速や輸送係数の解析が可能になる。また、ずり応力チャンネルの相関関数を解析することにより、従来から知られた手法を用いて粘性係数を制限する研究も検討する。これらの研究を行うために必要な格子QCDシミュレーションは既に終えており、解析に必要なデータは全て採集済みである。今後は、これらの膨大なデータを解析し、物理的な解釈を行っていくことが課題となる。 このクエンチQCDの研究と並行して、フルQCDでの相関関数の解析にも取り組む。この研究では、解析の統計量を増やして誤差を減らし、勾配流のフロー時間に対する依存性を詳しく理解し、安定な外挿を実現することが今後の課題となる。フルQCDの研究は、WHOT-QCD共同研究での研究として、共同研究者と協力しながら進めていく。 さらに、勾配流法を用いたエネルギー運動量テンソルの測定を、クォーク間相互作用の伝達機構解明の研究に適用する研究にも取り組む。本期間中には、真空に置かれたクォーク・反クォーク系の応力分布の測定を行ったが、今後、クォーク3体系、4体系での応力分布の解析や、有限温度系での解析、また励起状態の解析など、様々な応用課題に取り組むことを予定している。
|
Causes of Carryover |
本期間中に予定していた海外出張の一部が主催者負担となり、自己負担の必要がなくなった。またこれに加え、次年度は、既に幾つかの当初予定していなかった出張が確定しているほか、本研究を進めるために不可欠な協力研究者へのサポートも行いたいと考えており、約6万円を次年度使用とすることにした。
|
Research Products
(14 results)