2017 Fiscal Year Research-status Report
Study of quantum radiation produced by nonlocal correlations of quantum fields
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17K05444
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
山本 一博 広島大学, 理学研究科, 准教授 (50284154)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 曲がった時空上の場の量子論 / 非局所相関 / ウンルー効果 / エンタングルメント |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29度の研究成果は、ミンコフスキー時空の真空状態に対するエンタングルメントによる記述を時空の全領域に渡る記述に拡張し、これをもとに量子場と相互作用しながら一定加速運動する調和振動子の(ウンルー・ドウィット検出器)模型が生み出す量子放射の起源を特定した。これまでにミンコフスキー時空に張った左・右のリンドラー時空にそれぞれ構成した量子状態のエンタングル状態として、ミンコフスキー真空が記述されることは知られていた。この記述を未来・過去カスナー時空に構成した状態による記述にまで拡張した。これをもとに、ミンコフスキー時空を一定加速運動する検出器が生み出すエネルギー放射が、右リンドラーモードと右向きカスナーモードのエンタングル状態が作り出す非局所的量子相関に起源を持つことが明示された。また4次元時空とは異なり、2次元時空では加速方向に垂直な運動量が存在せず、2次元の特殊性のため放射がゼロになるという違いも明らかにした。これらの研究成果は、学術雑誌Physical Review Dに掲載された。 応用として一定加速運動する調和振動子の検出器の模型をドジッター時空中に拡張し同様の解析を行った。ミンコフスキー時空中の場合と同様な構造を持つ量子放射がドジッター時空でも産み出されることが分かった。この結果は、ミンコフスキー時空の場合との類推から、ドジッター時空中の真空(バンチ・ディビス真空)がドジッター時空に部分的に張られた領域に構成される状態のエンタングルメント状態として記述されることと深く関係していると推測される。今後の研究の1つのテーマとして、ドジッター時空の真空の記述について探求し、量子放射との関係まで明らかにする必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究によって、一定加速運動する検出器や粒子からのウンルー効果による量子放射に対し、ミンコフスキー真空がエンタングルメントによって記述される非局所相関が起源となっていることが明示された。この成果を曲がった時空に拡張し、ドジッター時空中で一定加速運動する検出器から量子放射が存在することをこれまでに確認しており、この成果については現在論文を執筆中である。これによると、ドジッター時空中の量子放射を与える表式の理論構造に、ミンコフスキー時空の場合と同様な構造が存在し、ドジッター時空の真空の記述がエンタングルメントによって記述されることと深く関係していることが予想される。ドジッター時空中で一定加速運動する粒子の軌道は、ドジッター時空のStatic Chartと呼ばれる時間に依存しない座標で半径が一定の世界線が軌道となる。そこでドジッター時空中に左右2つのStatic Chartを導入し、そこにそれぞれに構成される量子状態のエンタングル状態として、ドジッター時空の真空が記述できると期待される。またこれはドジッター時空全体に拡張されると予想される。これを厳密に示すための研究を進めている。 量子場の真空に現れる熱的性質や、量子場の状態のエンタングルメントをどのように取り出せるかどいう問題を理解するため、量子場と相互作用する検出器の振る舞いについて多くの研究者が研究を進めてきた。一定加速運動する検出器に対して、揺動散逸関係が成り立つことが知られている。この関係を一般化して複数個の検出器に対して成り立つ関係や量子情報理論の技術を用いた検出器間の量子相関について研究を進めている。ドジッター時空での多検出器については、運動方程式を導出している。調和振動子の模型では、一般には計算過程で発散量が現れることが分かったので、発散の取り扱いについて処方を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究は、概ね順調と言える。今後は曲がった時空における量子場の真空状態のエンタングルメントを用いた記述について研究を継続し、確実に研究成果とすることが大事である。特に、ドジッター時空に関して、左右2つのStatic Chartに構成した量子状態のエンタングル状態としてドジッター時空の真空を記述するという問題は、ドジッター真空に現れる熱的性質と深く関係して重要な問題であるにもかかわらず、厳密な取り扱いがなされていなかった問題である。この背景には方程式の解が複雑な超幾何関数になるという問題があり、これに対しては数学公式を活用した解析を進めることで、ミンコフスキー時空で得られた構造と同様な結果をドジッター時空でも得られると考えている。 この問題の成果は、曲がった時空における量子相関の理解においても重要な成果となる。ドジッター時空における多検出器については運動方程式に対する解析を継続し、量子場の生み出す量子相関については、発散の問題を解決できればNegativityなどの量子情報量を評価する方針である。 また、電磁場、フェルミオン場に対する拡張研究を行い、より現実的な理論模型の解析を検討し推進する必要がある。さらにウンルー効果に伴う量子放射の実験的検証に向けた研究のためには、一定加速度運動をする場合だけでなく、周期的加速運動を繰り返す場合について研究を進める必要がある。先行研究として、台湾のLin教授によって周期的加速運動をする検出器からの量子放射の研究が進められている。この先行研究の検出器が周期的加速運動をする場合の取り扱いについて深く理解し、現実的な粒子の問題へ応用を検討しながら研究を推進する。
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Research Products
(8 results)