2019 Fiscal Year Research-status Report
ニュートリノ実験および原子炉モニターのための水ベース液体シンチレータの開発研究
Project/Area Number |
17K05467
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
鈴木 州 神戸大学, 理学研究科, 助教 (20243298)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ニュートリノ / 液体シンチレーター |
Outline of Annual Research Achievements |
ニュートリノ実験を行うためには、その反応確率の低さから、検出器を大型化する必要がある。代表的なものの一つがスーパーカミオカンデをはじめとする大型水チェレンコフ検出器である。スーパーカミオカンデは、これまでいくつもの成果をあげているが、それは水チェレンコフ検出器の特徴(水であるため大量に用意しやすい、チェレンコフ反応を用いているためニュートリノの到来方向がわかるなど)を生かしたものであった。だが、水チェレンコフ検出器は、原子炉ニュートリノ(正確には反電子ニュートリノ)のような低エネルギーニュートリノの検出はできない。 そこで低エネルギーニュートリノを検出できるKamLAND、Double Chooz、Daya Bayなどの液体シンチレーターを大量に用いた実験が行われるようになってきたが、液体シンチレーターはニュートリノの到来方向がわからないという短所を持っている。また、可燃性で有害な有機溶媒をベースとしているため、大量の取り扱いに対する安全対策が水に比べて大変である。 そのような経緯で考えられたのが水ベース液体シンチレーターである。水をベースとしているため、不燃性で汚染性も少なく環境に優しい。また、水チェレンコフ反応も利用できる。ベースとして水を用いることの問題点は、発光体が水に不溶であることであった。本研究では、ドデシル硫酸ナトリウムや市販の洗剤などの界面活性剤を用いることでこれを解決し、光量は少ないものの有意なシンチレーション光が観測されるに至っている。 後述「現在までの進捗状況」にあるように計画全体が非常に遅れているため公の場での発表はないが、同様のことを研究している研究者と情報交換したり、科学雑誌から問い合わせが来たりしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初計画では、すでに出来上がった測定システムを用いて、本研究課題で作成した様々なシンチレーターの測定を行っていくはずであった。だが、研究室の整理整頓の際、不用意に測定システムを分解されてしまい、原状復帰には一部装置の不具合などもあって非常に手間取ることとなった。また、本課題研究者自身が二国間交流事業(ベトナム)の共同研究者の一員としてVietnam School of Neutrino (VSoN)のオーガナイザーおよび講師を務めることになったり、大学において衛生管理者としの業務が増えたり、さらに昨年度は高エネルギー物理研究者のコミュニティにおける事務局にあたったりと、研究に割く時間が削られたことも進捗が遅れたことの一因である。 今年度はいきなり新型コロナウイルスという予期していないことが起こっているが、高エネルギー物理研究者コミュニティにおける事務局の仕事も終わり、二国間交流事業(ベトナム)における仕事にも慣れてきたので、本研究課題に割く時間も増えるはずである。
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Strategy for Future Research Activity |
ようやくシンチレーション光測定システムが以前と同じ水準に復旧したが、一部老朽化した装置を交換しなければならないという可能性がある。その上で、まずは以前と同じ結果を再現できるかどうかをチェックしなければならない。本研究では、一応有意なシンチレーション光が観測されているが、実用するにはまだ光量が少ない。今後はより発光量の多い水ベース液体シンチレーターの開発を試みる。 原子炉ニュートリノ(反電子ニュートリノ)の検出には、陽子との逆ベータ崩壊反応から生じる陽電子と中性子の遅延同時観測という方法が用いられる。陽電子の検出は、周囲の電子との対消滅反応から来るガンマ線を捉えることで比較的容易であるが、中性子の検出にはそれとの反応確率が高いガドリニウムがシンチレーターに溶かしこまれてきた。今後の研究では、本研究において開発された水ベース液体シンチレーターにガドリニウムを溶解し、中性子検出が可能かどうかを放射線源を用いて調べていく。 本研究期間内では不可能かもしれないが、液体シンチレーターが検出器としてどれぐらいの期間その性能を保つかという経年変化や、検出器を大型化するにあたって光の透過度の測定も必要である。さらにはより低エネルギーでの使用も考えた低放射化シンチレーターの開発も将来的には必要な研究である。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」で述べたように、本研究課題の進捗が遅れているため、研究期間の1年間延長を承認いただいた。そのために次年度使用額が生じている。昨年度までに老朽化した装置の更新を行ったが、今年度は、必要であれば装置のさらなる更新費、液体シンチレーターの開発・作成費、および、成果発表や情報収集のための旅費として研究費を使用する予定である。
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