2019 Fiscal Year Research-status Report
Ultrasonic Investigation of Uranium Compounds without Local Inversion Symmetry
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17K05525
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
柳澤 達也 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (10456353)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 物性実験 / 低温物性 / 磁性 / 超音波 / 奇パリティ多極子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画当初から電流誘起現象を探索してきたUNi4Bであるが、超音波測定の測定手法を改良し測定精度を高めて追試し続けたが、現状用いている単結晶試料と超音波測定の組み合わせでは「反転対称性無き結晶構造に起因する交差相関現象」は測定精度内で観測されないという結論に至った。電流下測定と並行して蓄積したUNi4Bの強磁場・極低温下の弾性応答の基礎データを2サイト模型で再解析し、新たな結晶場基底状態模型とそこから得られるUの四極子―歪み相互作用係数、四極子間のサイト間相互作用係数を決定することに成功した。その結果、磁気秩序下でも常磁性状態を保つUサイトが確かに存在すること、さらに磁場中での四極子応答が磁場方向に対して強い異方性を持つことがあきらかとなった。UNi4Bのトロイダル秩序の背後に電気四極子の寄与が確かに存在することを示す重要な結果である。 昨年度、カイラル物質Cu2OSeO3における音波の非相反現象が報告されたため反転対称性を持たないUNi4Bのトロイダル秩序下においても音速の伝搬方向と磁場方向に依存する非相反現象が現れるかどうかを検証した。PPMSを用い非相反現象が「生じない」垂直配置で14 Tまで検証を行ったところ、磁場誘起スピンフロップ相による弾性応答に磁場印加に伴う履歴が生じたため、非相反現象の検証には至っていない。 2018年にUTe2でのスピン三重項・強磁場下リエントラント超伝導が発見され、国内外で集中的に研究が進められたため、急遽UTe2の弾性応答測定を行った。縦波モードC33の測定に成功し、20 K以下で弾性定数が急激にハード化し、その温度依存性は14 Tの磁場にも鈍感であることがわかった。超音波を用いた本物質の多極子応答の研究は未だ無く、今後に予定されている強磁場下実験の足がかりとなるノウハウの蓄積と、基礎データを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでドイツ・ドレスデン強磁場研究所、東北大学 金属材料研究所 附属強磁場超伝導材料研究センターとの共同研究で行ってきたUNi4Bの超音波測定の全結果の集大成となる論文を投稿準備中である。最近の放射光X線回折実験・中性子回折実験の報告では、本物質の結晶構造が従来考えられていた六方晶よりも低対称であることが指摘されているが、本研究で希釈冷凍機温度まで超音波測定を行った結果、0.33 K以下の極低温領域で、横波で弾性定数C66のソフト化が一定値に収束する振る舞いが得られており、この結果はUの対称性が六方晶よりも低下しており、縮退したUの基底状態が0.79 K程度分裂していることを示唆する。従来~0.3 Kで生じる比熱の異常は、Uの磁気秩序であると考えられていたが、極低温のバルク測定で得られた超音波実験の結果はその比熱の異常が系の本質的な低対称性に由来するショットキー異常であることを示唆しする。電流誘起現象を探索するという眼目で始めた研究であるが、その過程で得られた弾性応答の基礎データは、本系の基底状態の議論に一石を投じるものであるため、十分な成果が得られている。 一方、ウラン系の試料育成は難航しており、カリフォルニア大との共同研究で発見した新たなU-Pd-Bi系化合物は、酸化が激しく、その後の測定でも結晶構造の同定には至らず、磁化・電気抵抗測定も再現性が得られていない。今後も引き続き追試・探索を行う。代わりに、ウラン系を扱う本研究の目的とも一致することから、本研究期間内に新しく発見された新規超伝導物質UTe2の超音波測定を始めた。この物質も酸化が激しいが、静水圧力セル内にオイルと共に封入して超音波測定を行うことで、弾性定数C33の測定に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の拡大により参加を予定していた学会・研究会と出張実験を、コロナウイルスの収束を待って遂行する予定である。研究計画をより実現性の高い国内出張に変更し、金属材料研究所の20T-SCM、25-TSCM等を用いて実験を行う。 コロナウイルスが収束するまでの間、北海道大学でPPMSを用いたウラン系化合物(U3Pd20Si6)の電流化超音波測定を行う。 2018年にUTe2でのスピン三重項・強磁場下リエントラント超伝導が発見され、国内外で集中的に研究が進められたため、東北大金属材料研究所の青木・清水らとの共同研究により急遽UTe2の弾性応答測定を行った。本試料は酸化するため静水圧セル中に封入した単結晶試料で、縦波モードC33の測定に成功した。20 K以下で弾性定数が急激にハード化し、その温度依存性は14 Tの磁場にも鈍感であることがわかった。超音波を用いた本物質の多極子応答の研究は未だ無く、本研究計画の眼目にも一致するため、次年度も研究を続けたい。一方、UTe2の圧力下弾性応答の測定も推進する。静水圧下においては超伝導相内に二段の構造が現れ、1.5 GPa付近でTc, Hc2が増大した後に、さらに高圧領域で未解明の秩序相に転移することが報告されている。静水圧下実験で低磁場領域における弾性応答の知見を深め、次の競争的基金の申請につなげる。
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Causes of Carryover |
令和2年3月、新型コロナウイルス感染症の拡大により参加を予定していた日本物理学会第75回年次大会(2020年3月16日~19日)が開催中止となり、所属する機関で不要不急の(用務での出張、イベントの開催等)を自粛する方針となっ たため、予定していた出張実験が実施出来ないことが判明した。そのため事態収束後に開催される学会等で本研究計画 の成果発表を行い、出張実験は4月以降に新たに調整する必要が生じた。
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Research Products
(13 results)
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[Journal Article] Linearly Polarized Hard X-Ray Photoemission Spectroscopy of PrBe132020
Author(s)
Satoru Hamamoto, Yuina Kanai-Nakata, Hidenori Fujiwara, Kentaro Kuga, Takayuki Kiss, Atsushi Higashiya, Atsushi Yamasaki, Shin Imada, Arata Tanaka, Kenji Tamasaku, Makina Yabashi, Tetsuya Ishikawa, Hiroyuki Hidaka, Tatsuya Yanagisawa, Hiroshi Amitsuka, Akira Sekiyama
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Journal Title
JPS Conference Proceedings
Volume: 29
Pages: 012010(1-6)
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Unusual phase boundary of the magnetic-field-tuned valence transition in CeOs4Sb122020
Author(s)
K. Gotze, M. J. Pearce, P. A. Goddard, M. Jaime, M. B. Maple, K. Sasmal, T. Yanagisawa, A. McCollam, T. Khouri, P.-C. Ho, and J. Singleton
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Journal Title
Physical Review B
Volume: 101
Pages: 075102(1-7)
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] UNi4Bの共鳴X線散乱Ⅱ2020
Author(s)
村田怜也, 今布咲子, 金子佑真, 田端千紘, 中尾裕則, 齋藤開, 清水悠晴, 青木大, 日髙宏之, 柳澤達也, 網塚浩
Organizer
日本物理学会第75回年次大会
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