2018 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical study of vortex states to clarify the mechanism of superconductors having significant spin-orbit coupling
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17K05542
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
市岡 優典 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (90304295)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 物性理論 / 超伝導 / 計算物理 / 強相関電子系 / 低温物性 / 磁束・渦糸状態 / スピン軌道相互作用 / 磁場中物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、非従来型超伝導でのスピン軌道相互作用に密接に関係した機構を解明するため、第一原理電子状態計算より得られた情報も利用し、磁場中の渦糸状態の空間構造や物性を定量的に正しく計算する手法を開発している。これまで、第一原理電子状態計算の情報をもとに多軌道系電子状態のモデルを構成し、スピン軌道相互作用を導入して、クーパー対を形成する擬スピンの基底でフェルミ面上の軌道角運動量とスピン角運動量の情報を得る手法の開発した。そして、その擬スピンの基底におけるクーパー対としてスピン一重項超伝導の場合やスピン三重項超伝導の場合での磁場中物性について理論研究を進めている。 超伝導体Sr2RuO4に注目した研究では、超伝導臨界磁場の常磁性対破壊効果による抑制効果の理論評価を行った。この系はカイラルp波スピン三重項超伝導が実現しており、クーパー対のスピン成分を示すdベクトルがc軸方向を向いていると考えられている。一方、実験事実としてab方向の磁場下では高磁場領域で超伝導が強く抑制され常磁性対破壊効果に似た現象が観測されている。従来の理論研究では、dベクトルがc軸方向の場合には常磁性対破壊が起きないため、この超伝導抑制効果は説明できていなかった。本研究では、Sr2RuO4を想定した多軌道電子系モデルにおいて、常磁性対破壊効果による超伝導臨界磁場を理論計算した。その結果、結晶のc方向への電子の飛び移りによる軌道自由度の混成の効果とスピン軌道相互作用の両方が働く場合には、dベクトルがc軸方向の場合においてもab方向の磁場下で常磁性対破壊効果による超伝導の抑制が起こり得ることを明らかにした。また、この効果においてab面内での磁場方向依存性についても理論評価した。 この他、磁場方向をc軸から傾けた場合の渦糸電子状態など、磁場下での渦糸状態について新たな理論計算手法を開発する研究も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究基盤として、第一原理電子状態計算の結果から多軌道系電子状態のモデルを構成し、スピン軌道相互作用を導入して、クーパー対を形成する擬スピンの基底でフェルミ面上の軌道角運動量とスピン角運動量の情報を得る。そして、超伝導状態の磁場下の物性の理論評価に擬スピンの特徴がどのように反映しているか明らかにする研究を進めている。 Sr2RuO4を対象とした、超伝導臨界磁場の常磁性対破壊効果による抑制効果の研究においては、結晶のc方向の電子の飛び移りによる軌道自由度の混成の効果とスピン軌道相互作用の両方が働く場合には、dベクトルがc軸方向の場合においてab方向の磁場下でも常磁性対破壊効果による超伝導の抑制が起こり得ることを明らかにした。また、この効果においてab面内での磁場方向依存性についても理論的に明らかにし、複数の超伝導成分が混在する場合にも理論計算手法を拡張できることを示した。これはスピン三重項超伝導における、スピン軌道相互作用と軌道自由度の混成効果の重要性を明らかにする成果であり、学術誌への論文掲載も決定している。 また、Eilenberger理論による渦糸格子状態の空間構造と物性の数値計算では、磁場方向をc軸から傾けた場合の渦糸電子状態の変化についての理論計算や、磁場方向をab面内で回転させた場合の比熱振動における不純物散乱効果の理論評価、超伝導状態におけるスピン流など、次年度につながる新たな理論計算手法の開発も進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで開発してきた理論研究の手法と計算結果の実績をもとに、これまで得ている成果を整理して新現象や法則を見つけ出して成果発表へと進めるとともに、新たな理論計算手法の開発や新たな系への展開を目指し、今後の研究を推進していく。 Sr2RuO4を対象とした、超伝導臨界磁場の常磁性対破壊効果による抑制効果の研究成果に関しては、今後の研究において、この理論評価手法をスピン軌道相互作用が重要と考えられる他の非従来型超伝導体へ展開させていくことを目指す。特に、反対称スピン軌道相互作用を考慮可能となるように理論を発展させ、いわゆるトポロジカル超伝導の系へと研究を進めていくことを目指す。 また、Eilenberger理論による渦糸格子状態の空間構造と物性の数値計算では、磁場方向をc軸から傾けた場合の渦糸電子状態の変化についての理論計算や、磁場方向をab面内で回転させた場合の比熱振動における不純物散乱効果の理論評価などについても、学術論文への掲載を目指して、研究成果をまとめていく。また、これらの渦糸電子状態の理論計算に、上記の常磁性対破壊効果を取り込むなどスピン軌道相互作用の効果がどのように渦糸状態の物性に反映するのかの解明を進めていく。さらには、走査型トンネル顕微鏡(STM)で観測される渦糸まわりの局所電子状態のスペクトルに関しての実験結果について、本研究での理論計算の結果との定量的な比較についての検討を行い、STM実験データの分析からスピン軌道相互作用の効果を見つけ出す試みも進める予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)Sr2RuO4を対象とした、超伝導臨界磁場の常磁性対破壊効果による抑制効果の研究成果について、本年度中の論文掲載を目指していたが、論文査読コメントを受けての原稿改訂作業に時間がかかってしまい、年度内に論文掲載は決定したものの、掲載は次年度期間となってしまった。そのため、オープンアクセスの経費を含む論文掲載料のために準備していた支出予定の使用額が次年度使用となってしまった。 (使用計画)今年度分からの次年度使用額については主として、今年度に掲載決定している上記の学術誌論文掲載のため、オープンアクセスのための経費を含む論文掲載料として支出する。また一部は、次年度の経費と合わせ、研究成果発表のための旅費として使用する計画である。
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